9 虐殺伯の見据えるもの1


 SIDE リオネル


「……ガストンがミゼル・バレッタと接触したか」


 居城の最奥で伯爵は玉座のように豪華な椅子に座っていた。


 その腰の上には清楚な美少女がまたがり、熱い吐息を漏らしている。


 黒髪を結い上げた清楚な雰囲気の美少女で、メイド服を身に付けている。

 この城に務める侍女であり、彼の数多い愛人の一人でもあるベアトリス・フラルだ。


 伯爵はベアトリスを対面座位で抱きながら、思考を巡らせていた。


 ――ガストンは上手くやっているだろうか。


 彼は、リオネル所有する五つの神器の一つ──『悪辣なる盾』を与えた、忠実なしもべだった。

 そして、もっとも信頼する片腕でもある。


 リオネル同様に『次なる段階』に進んでいる彼の戦闘能力は、クラスS神器使いにすら引けは取らない。

 ミゼルが相手でも、そう簡単には負けないだろう。


 とはいえ、やはりクラスSの神器使いが恐るべき敵であることに違いはない。

 ミゼルしかり、ミカエラしかり。


 前回は圧倒したとはいえ、ミカエラとて次に相対したときにどうなるかは分からない。

 討たれることも、あり得る。


 そしてミゼルにも──。


「はあ、はあ……ご心配ですか、伯爵……?」


 自ら腰を振り、息を弾ませながらベアトリスがたずねた。


「少し、な。それに迷いもある」


 リオネルは素直に心情を吐露した。


 ベアトリスはそれを慰めるように、柔らかな唇を伯爵の唇に押し当てる。

 伯爵もそれに応え、美しい侍女の唇を強く吸った。


「……やはり殺すべきか」


 ベアトリスとの短くも濃密な口づけを楽しんだ後、リオネルはつぶやいた。


 危険を排除する、という意味では殺してしまうのが一番だろう。


 クラスS神器の使い手であれば、手駒としてぜひ欲しいところではあるが――。

 ミゼルからは危険な匂いがする。


 ミカエラ以上に――。


「ただし、彼の真意を聞いてからだ」


 ひとりごちる。

 リオネルの手勢である暗殺者集団『殺戮の宴』を、ミゼルはたった一人で壊滅させた。


「その真意がどこにあるのか……」


 己の力に酔いしれているのか。

 犯罪者への義憤か。

 あるいは伯爵に敵対する者とつながっているのか。


 敵にしかなり得ないなら、始末するしかない。


「もし味方に引き入れられるのであれば、それに越したことはないのだが、な」


 やはり惜しい。

 未練を完全に断ち切れない。


 伯爵の口元にかすかな笑みが浮かんだ。


「『殺戮の宴』などより、よほど役に立ってくれそうだからな……」






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