15 侵入者たち

「なっ……!?」


 学内最速クラスのレナでさえ、その太刀筋はまったく見えなかった。

 あっという間に三人の生徒が斬られ、倒れ伏す。


「どいつも……こいつも……皆殺しだ……」


 アーベルは血濡れた黒い剣をだらりと下げ、うめいた。


 血走った目で、周囲を見回す。


 吹きつける、すさまじい殺意。

 爽やかで女子からの人気抜群だった、かつての面影はまったくなかった。


「アーベルくん、どうして……!?」


 雰囲気が異常だった。


 およそ人間とは思えぬ、禍々しい雰囲気。


 たとえるなら──魔人といったところか。


「なんだ、レナか……?」


 アーベルがこちらを見つめた。


 瞳の奥に浮かぶ、濁った光。

 そこには爽やかさなど一片もない。


 ねっとりとまとわりつくような欲情を感じ、背筋が粟立った。


「こ、来ないで……」


 レナはじりじりと後ずさる。


 どう見ても、アーベルは普通じゃない。

 逃げた方がよさそうだ。

 と──、


「殺して……やる……」


 背後からも、そんな怨嗟の声が聞こえた。


「っ……!?」


 驚いて振り返ると、そこにも黒い人影がいた。


 アーベルと同じようなデザインの鎧をまとっている。


「このナーグ様が……どいつもこいつも……皆殺しだ」


 大柄な少年がうなる。

 手にしている武器も、アーベルと同じ黒い剣だ。


「ひっ……」


 レナは短い悲鳴を発した。


 前後を挟まれ、逃げ場がない。


(ミゼルくん……)


 反射的に思い浮かべたのは、恋しい少年の顔。


(助けて──)


 前後からアーベルとナーグが近づいてくる。

 レナは恐怖で体がすくんで動けない。


 二人が同時にレナに向かって手を伸ばし――、


 ごがぁっ!


 次の瞬間、すさまじい打撃音とともに、アーベルとナーグが続けざまに吹き飛ばされた。


「えっ……!?」


 新たに現れた人影も、同じく黒だった。


 風にたなびく漆黒のマントを身に着けた、美しい少年。


「大丈夫か、レナ」


 ミゼルが巨大なハンマーを肩に担ぎ、言った。




***

※次回から9章になります。明日更新予定です。

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