9 新たな胎動3
黒いメタリックな光沢をもつ狼――。
ナーグの前に現れたのは、そんな外見の怪物だった。
「な、なんだ……?」
戸惑い、おびえながら後ずさるナーグ。
まさか、校内でいきなりモンスターに遭遇するとは。
辺境ならともかく、こんな都市内で普通はモンスターが出現することはない。
魔族やモンスターが町に侵入して人を襲ったというのは、もう何百年も前の昔話である。
「恐れるな。私は敵ではない」
狼が言った。
いや、言葉を発してしゃべったというよりも、
「いい働きをしてくれそうだ」
そう、彼の頭の中に直接声が響いた感じだ。
どうやら眼前の狼が発した念話のたぐいらしい。
あるいは、この狼は通信機能を備えた魔導具の一種なのかもしれない。
「何を……言って……?」
ますます戸惑うナーグ。
「ミゼル・バレッタを打ちのめしたいのだろう?」
と、狼。
確かに、その通りだ。
あのすました美形面を思う存分ぶちのめし、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
奴が侍らせている女を残らず奪い取り、犯してやりたい。
ナーグの中にドス黒い願望が盛り上がる。
「いいぞ、その願望……その妄執……それこそが神器を操るための資質の一つ」
狼が口の端を吊り上げ、まるで人間のような笑みを浮かべた。
「だが奴はとある存在から力を授かった。常人ではとても対抗できぬ」
「とある……存在?」
「お前にも同種の力を授けよう。ミゼルに対抗するための力を」
黒い狼が語る。
「ミゼルに恨みを晴らしたいのだろう?」
ナーグはごくりと息を飲んだ。
突然のことで、まだ理解が追いついていない。
だが、ミゼルをブッ飛ばせるというなら、その力には大いに興味がある。
「へっ、どんな力をくれるんだ?」
ナーグは狼に語りかけた。
口の端を吊り上げ、歪んだ笑みを浮かべて──。
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