8 新たな胎動2

 昼休みになった。


「えへへー、今日はミゼルくんとランチタイムだ」


 レナがにっこりと嬉しそうだ。


 今日は俺とレナ、ジークリンデ、ターニャ先輩……この四人で一緒に昼食を取っていた。

 メンバーは前回の授業でミカエラに選ばれた人間ばかり。


 レナがこのメンバーで昼食を一緒にしたい、と言い出して実現したのだった。


「そういえば、ミカエラ様がしばらくお休みなさるとか」


 ジークリンデが言った。


 ちなみに俺とレナが隣り合わせ。

 で、俺の正面にジークリンデ、斜向かいにターニャ先輩という並びだ。


「ミカエラ──いや、ミカエラさんが休養?」

「あたしも聞いたよ。体調を崩されたんだって」


 レナがうなずく。


「心配だな……」


 ターニャ先輩がつぶやいた。


「体調不良……か」


 俺との戦いが原因なんだろうか。

 あるいは、体調不良で休養というのは俺の油断を誘うためで、本当は元気なのか?


 隙を突き、闇討ちでもしてくるつもりか。


 彼女はいずれまた俺に戦いを挑んでくるはずだ。

 俺の正義を否定するために。


 正義を標榜する以上、正々堂々と戦いを挑んでくる可能性の方が高いが――前回のことで、ミカエラの心境がどう変化したか分からない。


 警戒を強めておく必要があるな――。


「ん、どうしたの、ミゼルくん?」


 レナが俺を見つめた。


「ミカエラさんが心配?」

「まあ……な」


 心配なのは彼女のことではなく、彼女からの襲撃だが。


「ミカエラさんって二十代後半だと思うけど、ミゼルくんの守備範囲なんだね……むむむ」

「守備範囲?」

「あたし、負けない」


 レナがジト目になっていた。


「なんの話だ?」

「やれやれ。君はあいかわらず鈍感に過ぎるな」


 ターニャ先輩が俺を見て、軽く肩をすくめた。

 こっちも若干ジト目だ。


「本当、鈍感です……」


 さらにジークリンデまでジト目だ。


 トリプルジト目の前に、俺もさすがに戸惑う。


 だから、なんの話なんだ……?


    ※


 SIDE ナーグ


「くそ、ミゼルの野郎……! ちょっとばかりモテるからって調子に乗りやがって!」


 ナーグはミゼルのことを思い出しながら、学園の裏手にある道を歩いていた。


 正面からケンカを売っても、とても敵わない。


 少し前までは校内で最弱の部類だったミゼルが、なぜ突然強くなったのか……。

 しかも、周囲に何人も美少女を侍らせて。


 怒りと嫉妬と羨望──。


 複雑に入り混じった気持ちが、ナーグの胸の中でドロドロと渦巻く。


「ぶちのめしてぇ……くそっ」


 地面を蹴りつける。


 と、蹴った場所が突然、異様な形に盛り上がった。


「ならば、そうするがいい」


 盛り上がった箇所から声が響く。


 そいつは狼のようなシルエットとなり、ナーグの前に現れた――。

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