7 新たな胎動1

「ん、どしたの? あたしの顔に何かついてる?」


 レナがきょとんと首をかしげた。

 つぶらな瞳が俺をまっすぐに見つめていた。


 気持ちが、揺らぐ。


 なんだ、この感じは――。


「……いや、なんでもない」


 俺は視線をわずかに逸らした。


 考えたくはないが、たぶんこの気持ちはアレだ。


 俺は――照れているんだ。

 レナと向かい合うことに。


 あるいは――自分の気持ちと向かい合うことに。


「あー、そっかそっか。あたしに見とれてたんだ? そっか、ミゼルくんもやっと自分の気持ちに素直になったんだねー」

「ん?」

「ふふふ、告白を受け入れる準備はできてるよ? あたしはいつでもウェルカムだからっ」


 レナはにやけた笑みを浮かべた。


「ヨダレ垂れてるぞ、レナ」


 と、


「ミゼルぅ……」


 前方からうめくような声が聞こえた。

 大柄な男子生徒が俺を見ている。


 覚えのある相手だった。


「……お前か」


 こいつの名前はナーグ。


 以前に、奴が他の生徒を恐喝している現場を押さえ、制裁を加えたことがある。


 俺はナーグに向かってまっすぐ歩いていった。


「あれから悪事は働いてないだろうな?」


 すれ違いざまに耳打ちする。


 こういうタイプが改心するとは思えないからな。

 なら、定期的に釘を刺し、少しでも牽制しておくしかない。

 そうやって、多少なりとも被害を防ぐしかない。


 後は――目に余るようなら、再度の制裁を加えるか。


 そんな威圧感を込めて、じろりとにらむ。


「ひ、ひいっ……」


 ナーグがビクンと体をこわばらせるのが分かった。


「し、してないっ……してませんっ……!」


 俺に対して相当おびえているようだ。


 この様子だと陰で恐喝なんかはしてないかもしれないな。


 いちおう『審判の魔眼』で確認しておく。

 俺が制裁を加えた日以降、奴に大きな罪の記録はなかった。


 少し意外だった。

 てっきり、ほとぼりが冷めたら、またやるかと思ったが――。


 俺の脅しが思った以上に効いていたのかもしれない。


「ならいい。引き続き品行方正に生きろ」

「は、はいぃ……」


 青ざめた顔でうなずき、ナーグは逃げるように去っていった。


「ミゼルくん? ナーグくんと何かあったの?」


 レナがきょとんとした顔で俺を見ている。


「いや、ちょっとした知り合いだから挨拶しただけだ」


 俺は去っていく後ろ姿に視線をやった。


 罪人ではあるが、今の俺の基準では殺すほどのことはない小物だ。


 そう、『今』の俺の基準では――まだ。

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