6 迷いと感謝

 俺は、悪を片っ端から殺す正義の味方だと思っている。


 ミカエラは、悪を片っ端から捕え、裁きを受けさせる正義の味方。

 ともに、正義を行う者──。


 だけど、俺たちの行く道は違う。

 まったく違う。


 そして、相容れないものだ。


 正直、彼女の言うことは綺麗ごととしか思えないし、現実を見ていない理想論に過ぎない。

 クラスSの神器を与えられながら、生ぬるい正義を行う彼女には憤りさえ感じる。


 だけど──同時に惜しいとも思う。


 その力を、もっと違うふうに使ってくれたら。

 たとえば、俺のように悪人を片っ端から殺してくれたら。


「とはいえ、説得できそうにはないし……な」


 なら、どうするか。


 さらに、それとは別に影の中にいた『もう一人の俺』の問題もある。


 奴の正体は謎のまま。

 ヒントすらない。


 ただ、放置しておいていい問題ではないだろう。


「なんとかして探っていかないとな」


 俺は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


 解決すべき課題は、多い。


 考えるほどに悶々として、結局俺は一睡もできなかった。




 翌朝、王立騎士学園の校門を通ったところで、レナに声をかけられた。


「おっはよー、ミゼルくん!」


 青いポニーテールを揺らしながら、俺の側まで駆け寄ってくるレナ。


「……おはよう」

「あれ? 元気ないねー」


 レナが怪訝そうに俺を見た。


「目の下にクマができてるよ」

「少し夜更かししただけだ」

「夜更かし……まさか、いかがわしいことしてないよねっ?」


 レナが身を乗り出すようにしてたずねる。


 ……なんか目が血走ってないか、レナ?


「してない」

「本当? ミゼルくん、女の子に誘われたりしてない? 淫靡で妖美で爛れた時間を過ごしたりしてないよね? ね?」


 いきなり何を言い出すんだ。


「ちょっと考えごとをしていたら、眠るのが遅くなっただけだ」


 俺はあいまいな言葉で返答した。


「君は……いつもながら元気いっぱいだな」

「あははは、それがあたしの取り柄だから~」


 まあ、元気なのはいいことだ。

 俺も彼女の朗らかな笑顔には何度も癒されている。


 神器を手に入れてからは、殺伐とした生活を送っているからな。


 ひたすらに悪人を殺す日々。

 殺して、殺して、殺し続ける日々。


 そのことに対する後悔や罪悪感はない。


 ない、はずだ。


 ただ――心の奥の部分が、少しずつ何かで澱んでいく感覚はあった。


 最近、その『澱みの感覚』が強まっているような気がした。


 だから、レナの存在には救われているかもしれない。


 彼女がいなければ、俺はもっと荒んでいたかもしれないな――。


 ……ありがとう、レナ。

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