5 日課

 色々と謎が残ったが、まずはやるべきことをやろう。


 俺は近くの雑木林に入った。

 夜の十時を回り、人気はまったくない。


 淡い月明かりが周囲を淡く照らしていた。


「今日の日課だ」


『影の支配者』を起動し、ブルーノに呼びかける。


 俺の家族の仇であり、分身特性を持つ神器の使い手。

 こいつの分身を殺すことで、俺にはスコアが加算される。


 次の神器を解放するための、スコアが。


「うう……ま、まず飯をくれよ……腹減った……」


 月に照らし出された足下の影から、ブルーノの弱々しい声が響く。


「我慢しろ。後で用意する」


 俺はブルーノにそっけなく言った。


 もちろん、ごちそうなんて与えるつもりはない。

 生命維持に最低限必要な分量だけだ。


「まずは分身を作れ。いつも通りにな」

「は、はい……」


 俺がにらむと、ブルーノはおとなしく従った。

 生み出された分身を、ヴェルザーレで淡々と潰し殺していく。


「ひ、ひい、助けて――」

「黙れ」


 俺は容赦なく潰した。


 こいつは家族の仇だ。

 その分身を殺すのに、ためらいなんてあるはずがない。


 ただ、最初のころは多少感じていた『昏い喜び』みたいなものが、今は感じられなくなっている。

 もはや完全な作業だった。


 どがっ、ぶしゅ、ぶちっ、ずしゃっ……。


 巨大な槌を振るい、潰す。

 鮮血を浴びながら、さらに潰す。

 断末魔を聞きながら、さらに潰す。


 悲鳴と苦鳴と骨や肉が砕ける音。

 それらが延々と響き渡る。


 不快な音をバックに、俺は作業に没頭した。


 潰す。

 潰す。

 潰す──


 130体ほどを殺したところで終了した。


「じゃあ、また明日な」

「お、お前……」


 ブルーノが震えている。

 今さら、俺を恐れているのか。


「……前と雰囲気が少し変わった」

「何?」


 じろりとにらむ。


「い、いや、やっぱり前と同じか……そ、そうにらまないでくれ……俺は逆らう気はねぇからよ……へへ」


 媚びへつらうような表情を浮かべたブルーノを、俺は冷ややかに見下ろした。


 俺の雰囲気が変わった?

 奴の言葉が、少しだけ心の隅に引っかかった。




 俺は寮に戻り、就寝した。


 あの影のことは──明日、あらためて考えよう。

 ミカエラとのことは──明日、学校で出会ったら対処しよう。


 考えながら、目が冴えてなかなか寝られなかった。

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