15 正義の味方と正義の騎士4

「ちいっ」


 ミカエラの一撃を避けきれず、俺は『黒衣』の胸元を切り裂かれた。

 鋭い痛みが走り抜ける。


『黒衣』の胸元が光の粒子と化して消え、その下の制服と肌が露出する。

 赤い血がしたたり落ちた。


 神器での戦いで、手傷を負ったのは初めてだ。


 こいつ、強い……!


 少なくとも、今まで戦ってきた犯罪組織やあの世界最強の傭兵よりも。


 ミカエラは、はるかに強い。


「今の攻撃は……!」

「あなたの神器特性はおそらく身体能力増幅でしょう。ですが、いかに強く、速くても、未来を読める私なら対処が可能なのです」


 ミカエラが言い放つ。


 戦いで興奮しているのか、顔が赤らんでいた。

 息も荒いようだ。


「ふう、ふう……正義の力を思い知りなさい、ミゼルくん」


 どこか自分に陶酔したような声音だった。


「──力を振るうのが楽しいか?」


 ふと生じた疑問だった。


「あんたの言葉には、どうも正義感よりも力を振りかざす喜びがにじんでいるように感じる」

「っ……!」


 ミカエラの表情が凍りついた。


「だ、黙りなさい……っ! 一体、何を根拠に──」

「俺は今までに何人も見てきたんだ。あんたみたいな表情を浮かべる奴を」


 俺は彼女をまっすぐに見据えた。

 その姿が、これまでに相対してきた殺人者や犯罪者たちに重なる。


「本当は──『正義のため』っていうのは、力を思う存分振るうための口実に過ぎないんじゃないか」

「だ、黙りなさいと言っているのです!」


 ミカエラが怒声を発した。


 意外に、精神的に脆いのか?

 明らかにうろたえている。


 そして、それは俺の言葉が痛いところを突いている証しなんだろう。

 だとすれば──。


「やっぱり、あんたの正義と俺の正義は違う」


 いや、そもそもミカエラが正義なのかどうかすら、怪しくなってきたな。


「……いちおう罪の値スコアを確かめておくか」


 俺の左目が赤い輝きを放つ。

 そして、表示された数値は──。


「スコアが0……だと……!?」


 彼女はいっさいの罪を犯していない。

 完全なる正義の味方だというのか?


「少なくとも殺人の類は一度も犯していないわけか……」


 そういう面では、立派な正義の味方だ。

 少なくとも、名目はどうあれ百人単位の殺人を犯している俺よりは。

 だが――。

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