13 正義の味方と正義の騎士2

「『死神の黒衣』──完全解放セットアップ

 漆黒のマントをまとい、超速で跳び下がる俺。

 十メートルほどの距離を取った。


 さらにヴェルザーレを召喚し、掲げる。


 近い間合いでは、俺の槌より彼女の剣の方が有利だ。

 だが、この距離ならヴェルザーレで十分に迎撃可能である。


「なぜ彼らを殺したのですか」


 ミカエラさんは俺の槌を警戒したのか、その場から動かない。

 ただ、俺をまっすぐ見つめている。


「彼ら?」

「『鮮血の牙』の構成員たちです。私も現場を見ましたが、全員が無残に殺されていました。中には逃げようとしたり、命乞いをしたらしき形跡がある者もいます。ですが──あなたは一人たりとも許さなかった」

「許す必要がどこにあるんです?」


 俺は眉根を寄せた。


「殺す必要こそどこにあるのですか」


 彼女もまた険しい表情になった。


「正当な裁きを受けさせるべきです」

「その『正当な裁き』とやらが、この国にあるとでも?」


 口の端を歪めて笑う俺。


 何を綺麗ごとを言っているんだ、この女は──。


 そんなものがあれば、俺の父さんや母さん、姉さんを殺したブルーノや『鮮血の牙』の構成員たちは相応の罪を言い渡されたはずだ。

 だけど、実際には無罪放免とほぼ同じことだった。


「この国の司法は腐敗しきっている。正義の裁きなんて行われない」

「だから、あなた自身が裁きを下したと? 神の力でもって人を裁くなど、分を超えた行為だと思いませんか」

「俺は、思わない」


 ミカエラさんの糾弾にも、俺はまったく揺るがない。

 揺らぐはずがない。


「そのための力だ」

「──あなたは間違っています」


 ミカエラさんが悲しげに首を左右に振った。


 正直、苛立ちを隠せない。

 彼女の言っていることは、綺麗ごとでしかない。

 現実を知らない人間が、正義の味方ごっこでもしているかのようだ。


「そして、これからも間違いを犯し続けるでしょう。授業の際、あなたの魂を──善悪を見定めようとしました。ですが、見切れなかった。ゆえに、こうして二人で話そうと考えたのですが」

「善悪を見定める……?」

「私の神器にそういった機能があるのです」


 ミカエラさんの右目が、緑の光を宿した。


「あなた自身も裁きを受けるべきです」

「そうはいかない」


 俺は『認識阻害の指輪』を発動する。


 王立騎士団の人間に、俺の『正義の行為』を把握されているのは厄介だ。

 まずは、その認識を改変させてもらう──。

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