10 ミカエラと少女騎士たち

「しかし、まあ……私も強い男は嫌いじゃないぞ」


 ターニャ先輩がぼそっとつぶやいた。


「顔もいいし、な。どうだミゼル。年上は嫌いか?」

「え、いや……」


 いきなり何を言い出すんだ、この人は。


「そ、そんな、ターニャ先輩まで……っ!?」


 レナが叫んだ。


「冗談だ」


 微笑み混じりに告げるターニャ先輩。


「目が笑ってないです! もしかしてターニャ先輩もミゼルくんのことを」

「さあな」


 ターニャ先輩の笑みが深くなる。


「ううううう……」


 レナはますますうろたえた様子を見せた。


「次は、レナ・ハーミットさん。お願いします」

「ほら、出番だぞ。レナ」

「ううううううう……」


 レナはターニャ先輩を何度も振り返りながら、ミカエラさんの元まで歩いて行いった。


 かなり動揺してるし、あれじゃまともに戦えないだろうな……。




 その予想通り、レナはミカエラさんに惨敗した。


「うう、いいとこなしだぁ……」

「そう落ちこまないでください。調子が出なかったようですが、それでも光るものはありましたよ。スピードとか……」


 ミカエラさんが落ちこむレナを慰めている。

 いい人だな……。


「……しまった、からかいすぎたか。悪いことをした」


 ターニャ先輩はばつが悪そうだった。


 俺たちは一通りミカエラさんとの対戦を終えた。

 やはり、国内三強と謳われるだけあって、彼女の剣腕はさすがだった。


 ジークリンデも、ターニャ先輩も、それぞれ善戦はしたが、ミカエラさんには軽くあしらわれた感じだ。


「上には上がいる、ということですね……」


 悔しげなジークリンデ。


「私もまだまだ研鑽が足りない……」


 ターニャ先輩は神妙な顔だ。


「ライバルが……ライバルがいっぱい……」


 レナだけは、あらぬ方向を見つめて何やらつぶやいていた。


 ライバル──?

 彼女はミカエラさんのことを、剣のライバルだと考えているんだろうか。

 負けん気の強い彼女らしい。


 授業が終わり、教室に戻ろうとしたところで、


「ミゼルくん、少しよろしいでしょうか?」


 ミカエラさんが近づいてきた。


「──放課後、校舎の裏庭に来ていただけませんか? 二人で話したいことがあります」

「ミカエラさん……?」

「神器使い同士で。誰にも邪魔されずに」


 彼女の右目が緑色の光を宿していた。

 やはり、ミカエラさんは神器使いか。


「──分かりました」


 うなずく俺。


「では、後ほど」


 言って、ミカエラさんは踵を返す。


 さっそうとした足取りで去っていった。

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