9 模擬戦決着

 またミゼルが斬りかかってきた。


 鋭い動きだった。

 おそらく騎士団でも上位に入るだろう。


 あるいはミカエラに匹敵する速度かもしれない。


「強い――」


 ミゼルが放つ嵐のような斬撃の連打を、ミカエラは華麗な剣さばきでなんとか防ぐ。

 防ぎつつ、彼から立ち上る魂のオーラに視線は釘付けだった。


(不思議な輝きね……)


 白と黒のオーラは反発するように弾け、かと思えば一つに混じりあい、時折まばゆい虹色の輝きを発する。

 虹色のオーラ、というのも初めて目にする現象だった。


 分からないことだらけで、ミカエラは狼狽を隠せない。


「隙あり!」


 そこへ、ミゼルが踏みこんできた。


「しまっ――」


 避けられない。


 鋭い切っ先が彼女の胸元に迫り――、


 りいん……。


 そのとき、澄んだ鈴の音がなった。

 ちょうど模擬戦の規定時間が過ぎたのだ。


「……ここまで、ですね。思った以上に素晴らしい動きです、ミゼルくん」


 ミカエラは一息つくと、意識を学園特別講師としてのそれに切り替えた。


 魂の色に気を取られたとはいえ、今のは完全に自分の負けだ。


 驚くべき強さだった。


 これでまだ学生なのだ。

 将来有望といえるだろう。


 ただし――得体のしれない魂の色が、やはり気にかかる。


 彼が将来、騎士団に入るとして――その存在は未来への希望となるのか。

 それとも――。


    ※


 俺はミカエラさんとの模擬戦を終え、次の順番であるジークリンデと交代した。


 さっきミカエラさんの右目が光っていたのは、神器の発光に見えた。

 だけど、じっくり見たわけじゃないから確証が持てない。


 それに彼女は魔法騎士だ。

 俺の動きを見切るために何らかの魔法を使い、それが右目の発光現象として現れただけかもしれない。


「すごかったねー、ミゼルくん。あのミカエラさんと渡り合うなんて」


 レナがはしゃいだ。


「やるな、ミゼル。いつの間にこれほど腕を上げたんだ?」


 ターニャ先輩は目を丸くしている。

 そういえば、彼女の前ではっきりと実力を見せたことはなかったかもしれない。


「えへへ、ミゼルくんって強いんですよー」


 レナが胸を張った。


 意外に豊かな膨らみが揺れる。

 ……別にガン見はしないけどな。


「嬉しそうだな、レナ」

「えへへへー」

「そのルックスに加え、学内最強レベルの剣腕──一気にファンが増えそうだな」

「た、確かに……! ど、どどどどどうしましょう、ターニャ先輩」


 ターニャ先輩の言葉に、いきなりうろたえるレナ。


「他の女子生徒に奪われる前に、積極的に攻勢に出てはどうだ?」

「攻勢……」

「ただ告白を待つだけ、というのは今どき流行らないらしいぞ。今は女性からもガンガン攻めていくべきだ、と聞いた」

「あたしから……攻める……っ!」


 レナが俺を見つめる。


「ミゼルくん──」

「な、なんだ」


 思わずたじろぐ俺。


 ぎらりっ。


「あたし、がんばる……この想いがもっと伝わるように──」


 レナの瞳が、まるで肉食獣のような強烈な眼光を放った。

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