28 一つの区切り

 俺はアジトから外に出た。


『死神の黒衣』を収納し、『認識阻害の指輪』を発動。

 周囲の通行人から俺の存在を認識されないようにしつつ、通りを進む。


 特に見とがめられることもなく、無事にラグル市に戻ることができた。


 ──いずれ向こうの町では大騒ぎになるだろうな。

 一夜のうちに、犯罪組織『鮮血の牙』の構成員が、ほぼ皆殺しになったのだから……。


 バックにいるというフォス公爵が捜査の手を伸ばしてくるかもしれない。


 とはいえ、俺にたどり着くことは難しいだろう。


 アジトに入るときも出るときも『指輪』を使って、俺の存在が察知されないようにしておいた。

 アジトでの戦闘時は、出会った奴らをほぼ皆殺しにしたし、唯一の生き残りであるブルーノは影の中に幽閉している。


「とりあえずは一区切り、といったところか」


 俺は小さく息をついた。


 家族の仇である組織を滅ぼした。


 もちろん、悲しみや苦しみがそれで癒えるわけじゃない。

 奴らを皆殺しにしたところで、父さんや母さん、姉さんが生き返るわけじゃない。


 だけど、それでも──一区切りだ。


『鮮血の牙』の連中がのうのうと生きているだけで、俺は息苦しかった。

 怒りが、憎しみが、後から後から湧いてきて、俺自身を侵食し続けていた。


 奴らとの決着をつけないかぎり、俺の心はあのころから──家族を失ったときから、一歩も前に進めない。


 だから、すべて滅ぼした。


「やっと……一歩踏み出せる気がするよ。父さん、母さん、姉さん」


 俺は万感の思いを込め、空を見上げた。


 どんよりとした曇り空に、太陽の光がわずかに差しこんでいた──。




※ ※ ※


次回より第7章になります。ここまで読んでいただきありがとうございました。

まだ未評価の方も、これを機会に下部の☆☆☆をポチっとして★★★にして評価してくださると、とても励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る