23 絶望の世界2

 突然現れたミゼルという少年によって、彼の運命は一変してしまった。


 何十人の分身を生み出しても、まったく歯が立たない圧倒的な戦闘能力。

 そして今、ブルーノが体感している不可思議な力。


(くそ、なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)


 自身の身に起きた理不尽に怒りの絶叫を上げつつ、分身を生み出す。


 そいつに自分の体を突き飛ばさせた。

 間一髪、馬車の進路上から逃れることに成功する。


「ふう、助かった」

「ぎゃあっ……」


 分身の方は馬車を避けられず、轢かれていた。

 即死のようだが、本体さえ無事なら問題ない。


 ブルーノはゆっくりと立ち上がった。


 馬車から振り落とされた御者を探す。


「このブルーノ様をすんでのところで轢くところだったんだ。落とし前はきっちりとつけさせてやる──」

「危ない!」


 と、背後から声が響いた。


「あ?」


 振り返ると、そこには猛スピードで駆けてくる馬車の姿。


「お、おい──」


 先ほどの馬車とは違う。

 また別の馬車が同じように暴走し、ブルーノに向かってくるのだ。


 しかも至近距離まで迫っていた。

 先ほどと同じようなシチュエーションである。


「冗談じゃねーぞ……!」


 ブルーノはふたたび分身を生み出した。

 同じ要領でなんとか馬車から逃れる。

 だが──、


「危ない!」


 みたび響く声。


「おいおい……」


 ブルーノは顔をひきつらせた。


 さすがに三度も続けば偶然ではない。


 なんらかの呪いでも受けているのか。

 それとも悪夢でも見ているのか。


 分身を生み出しては、馬車を避け、また新たな馬車も分身を使って避け──。

 そうこうしているうちに、一度に生み出せる限界数に達してしまう。


「く、くそっ、もう避けられねぇっ……!」


 眼前に迫る馬車を、ブルーノは絶望とともに見つめた。


 すさまじい衝撃が全身を襲う。


 肉が裂け、骨がバラバラになる感覚。

 激痛と灼熱感。


 意識が薄れ、やがて──。




「どこだ、ここは……!?」


 意識が戻ると、別の場所にいた。

 体が動かない。


 ぱち、ぱち、と何かが弾けるような音。

 焦げ臭い匂い。


「なんだ、一体……?」


 嫌な予感がした。


 ブルーノはそこで自身の手足が十字架のようなものに縛り付けられていることに気付く。

 はりつけ状態である。


 そんな彼を見つめる、無数の視線があった。

 群衆だ。


「あいつだってよ……」

「死刑になるんだよな……」

「大勢の人を殺したんだ、当然だろ……」

「早く燃やしちまえよ……」

「悪人には当然の報いだ……」


 誰もが冷めた目でブルーノを見ている。


「なんだよ……どうなってるんだよ……?」


 嫌な予感がますます大きくなる。


 まさか、このシチュエーションは──。

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