22 絶望の世界1

 SIDE ブルーノ


 気がつけば、周囲は一変していた。


「どこだ、ここは……!?」


 ブルーノは、ついさっきまでアジト内で侵入者と戦っていたはずだ。

 それがいつの間にか、町中に出ている。


 見慣れたバーグル町の大通りである。


「あいつはどこに行ったんだ? まさか夢でも見ていたのか──」


 体を見下ろす。


 ミゼルとかいう少年につぶされた右足は元に戻っていた。


 やはり夢としか思えない。

 だが、あのとき味わった痛みも恐怖も絶望も──とても夢とは信じられないほどの現実感があった。


 むしろ、今のほうが夢でも見ているかのように、妙に体がフワフワとしている。

 と──、


「危ない!」


 どこかから警告が聞こえた。


「えっ?」


 振り返ると、ブルーノの視界に巨大な馬車が飛びこんできた。


「逃げてくれっ!」


 叫んだ御者が振り落とされる。


 暴走した馬車はそのまま一直線にブルーノへと向かってくる。


 とても避けられるタイミングではない。


 このままではかれる!


「くっ……『分身宝珠』!」


 ブルーノは胸元のペンダントに呼びかけた。


 クラスB神器『分身宝珠』。

 とある国の神殿を訪れた際、突然現れた神から授けられたものだ。


 ブルーノが選ばれた理由は、特にない。

 ただの気まぐれだ、とその神は言っていた。


 ずいぶんとアバウトな話だと思ったが、力をくれるならなんでもいい。

 ブルーノはその力を己の欲望のために使った。


 まずは、暴力。

 一人では勝てない相手も十人、二十人と分身を生み出せば、苦もなく倒せる。


 あるいは、性欲。

 女性を大勢で囲み、寄ってたかって凌辱した。


 さらに、金銭。

 小さな店を分身でいっせいに襲い掛かり、制圧し、金を強奪するのは簡単なことだった。


 そうやって犯罪に手を染めているうちに、自然と彼は町の犯罪組織に身を置くようになった。

 そこでは特に暗殺部門を請け負い、組織内で確固たる地位を築いていった──。


 ブルーノの未来は明るかった。


 その、はずだった。


(なのに、なんで……なんで俺の身にこんなことが起こってるんだよ……!)

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