9 騎士と伯爵4
「あなたたちは、私が捕らえます」
ミカエラは二人を見据え、静かに宣言した。
「勇ましいことだ」
「ですが、無謀です。伯爵に歯向かうなど」
茨に拘束されながら、リオネルとガストンは平然としていた。
その余裕が不気味である。
「ミカエラ・ハーディン卿、今一度確かめたい。君は、我が同胞になるつもりはないか?」
「同法ですって……?」
「一介の騎士には決して味わえない栄光と名誉、そして人生の充実を約束しよう」
リオネルが笑う。
「正義だの騎士道だのといった下らない価値観を後生大事にするより、よほど素晴らしい人生を堪能できるぞ」
不快な笑みだった。
「私はあなたに与する気はありません。先ほどの行為を容認するつもりもありません」
「ならば、やはり私を捕らえるのか? 私はこの国を動かす人間だぞ。お前はフリージアに混乱をもたらすつもりか?」
「言ったはずです。何者であろうと罪は罪。私の役目は法に基づき、それを破る者を捕まえること──」
「堅物だな。もう少し俗っぽくなれぬものか……」
リオネルはため息をついた。
「私の仲間になるには、少々正義感が強すぎるようだ──しつけが必要だな」
伯爵の背後に、黒い狼のようなシルエットが浮かび上がる。
「行け、我が『獣』よ」
(あれが──伯爵の神器!?)
ミカエラはすかさず細剣を掲げた。
「魔を切り裂きなさい、『
刀身がまばゆい輝きを放つ。
次の瞬間、狼型のシルエットが両断された。
「剣の間合いではないはずだが──今のが、その神器の特性か」
「答える必要はありませんわ」
ミカエラは油断なく細剣を構えた。
『
回避も防御もほぼ不可能の、強力無比な斬撃だ。
とはいえ、伯爵もおそらくはミカエラ同様にクラスS神器の持ち主だろう。
今の一撃くらいで、神器を破壊されてしまうとは思えない。
「ふむ。では、今度は二つで──どうだ?」
伯爵の背後に、ふたたび狼のようなシルエットが浮かび上がる。
宣言通り、今度は二体。
「無駄ですわ」
ミカエラはふたたび細剣を一閃させた。
と──、
「私がいることもお忘れなく」
老執事が右手の指を、ぱちん、と鳴らした。
「『
つぶやきと同時に、狼型のシルエットの前に暗褐色の盾が出現した。
ミカエラが放った『空間を飛び越える斬撃』は、その盾の前に阻まれる。
次の瞬間、彼女の全身にすさまじい悪寒が走り抜けた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ……!?」
絶叫するミカエラ。
息が、できない。
(な、何……!? 一体、何が起こっているの……!?)
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