7 騎士と伯爵2

 執務室を出たミカエラは、王城の回廊を進んでいた。

 ここから正門まで行き、その後は神器の力で現場まで移動する予定だ。


「あれは──」


 ミカエラは足を止めた。


 前方から二つの人影が近づいてくる。


 全身から精力を発散しているかのような、壮年の男。

 その背後に突き従う、恰幅のよい老人。


「ほう、噂に名高い『フリージア三剣』の一人か」


 壮年の男がミカエラを見て、あごをしゃくった。


 フリージア三剣──王国内で最強と謳われる三人の騎士のことだ。

 ミカエラはその一人に数えられていた。


「……ミカエラ・ハーディンと申します。以後、お見知りおきを」


 丁寧に一礼するミカエラ。


 会うのは初めてだが、この男のことはよく知っていた。


 リオネル・ラバン伯爵。

 二つ名を『虐殺伯』。


 血塗られた逸話にはことかかない、この国きっての──いや、大陸きっての好戦的な貴族だろう。

 背後にたたずむ老人は執事だろうか。


 彼とここで出会ったのは偶然なのか。

 それとも──。


 ミカエラの緊張感が、高まっていく。


「リオネル・ラバンだ。高名なそなたに会えて嬉しく思うぞ、ハーディン卿」


 そんな彼女の緊張を知ってか知らずか、伯爵がニヤリと笑う。


「戦場での武勇は、人間の領域を超えている、とすら噂されているようだな。『戦乙女』という二つ名もあるとか」

「過分なお言葉、痛み入ります」

「私は実際に得た情報を述べているにすぎん。いや、実に興味深い。人間の領域を超えた、か。まるで──」


 笑み交じりに、何やらつぶやく伯爵。

 その、直後。


「っ……!?」


 すさまじい威圧感が、生じた。


 しかも、それが二つ。

 伯爵と執事からそれぞれ──ミカエラを押しつぶしそうなほどの、無形のプレッシャーが放出されていた。


(このプレッシャーは──)


 単なる闘志や殺気のたぐいではない。


 神々しさを感じさせる、強い力の気配。


(まさか、彼らは……神器使い!?)

「そなたも持っているのだろう? 神の力を顕現する聖具──『神器』を」


 伯爵がニヤリと笑う。


「一つ見せてくれないか?」


 その、直後。


 ミカエラの右目に『それ』は映った。


 モヤのように漂う何かが。


 おそらく、本来は不可視の現象なのだろう。

 ミカエラの右目に宿るクラスA神器『真実の魔眼』だからこそ捉えられた映像だ。


『危険度:A』

『方向:前方』

『時間:1.4秒後』


 モヤに表示されたデータを見て、ミカエラはハッと顔をこわばらせる。


 すぐに、その場を跳びのいた。

 ほぼ同時に、彼女が一瞬前まで立っていた場所が大きくえぐれ、砕け散る──。

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