4 殺すべき者

 少し迷った。


 正直、こいつらを殺したいと思う自分がいる。


 だけど、神器を得たときに、自分の中で決めたルールはルールだ。

 そのルールに照らし合わせると、こいつらを殺すわけにはいかない。


 たとえ、死んだ方がマシなクズであっても……。


「ルールは……ルール、か」


 ぎりっ、と歯を噛み締める。


 踏み外せば、無差別殺人者と同じ領域まで堕ちていきそうな気がした。


 だから──、


「くそ……っ!」


 俺は歯ぎしりしつつ、そいつらをにらんだ。


「お前と、そっちのお前は見逃す。消えろ」

「えっ? ええっ?」

「さっさと失せろ」


 どのみち、家族の仇は殺人の罪を犯しているんだし、必然的に皆殺しにすることになる。


 復讐という観点からすれば、こいつらは見逃してもいい。


「そうだ、見逃しても──」


 瞬間、俺の脳裏に父さんと母さん、姉さんの顔が浮かんだ。


 みんなの苦しむ顔が浮かんだ。

 こいつらに、苦しめられている姿を幻視した。


 そう、こいつらが父さんと母さんと姉さんを殺した。


 こいつらが……!


 胸が痛くなった。

 心臓が爆発しそうなほど鼓動を打っている。


 心の中の何かが、


 ──駄目だ。


 うめいた。


 許せない。


 家族を殺した連中を、その仲間全員を。


 世界から、消し去ってやる。


「──待て」

「えっ……?」


 俺は、逃がそうとした二人を呼び止めた。


「お前たちは前倒し・・・だ。いずれこの世の悪を一掃するんだから、少しくらい早くてもいいよな?」


 そのときの俺は──いったい、どんな表情を浮かべていたんだろう?


 喜悦か、悲哀か、興奮か、激情か。


「えっ? えっ?」

「な、何……? 前倒しって……?」


 そいつらの顔が恐怖にひきつる。


「まさか、俺たちを殺す……つもり……」

「ひ、人殺し……」


 ──そうだ、人殺しだ。


 なおも生じる迷いを振り切り、


「この世から悪を駆逐する──正義の、戦士だ」


 俺はヴェルザーレを振り下ろしす。


 そいつら二人も血しぶきを上げて絶命した。




 俺はさらに廊下を進んだ。


 今の行為は、正しかったんだろうか?

 正義の行いなのか?

 それとも単なる虐殺なのか?


 自問が頭の中でぐるぐると回っている──。

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