第6章 闇夜の血闘

1 血闘の始まり

 俺は町の中心部に向かって歩みを進めた。


 芝居がかった漆黒のマント、という人目を着きそうなビジュアルにもかかわらず、周囲の人間が俺を気にする様子はない。

『認識阻害の指輪』の効力だ。


 彼らにとって、俺は『特に気に留まらない、平凡な通行人』といった認識なのである。


 俺はまっすぐに進み続けた。


 目的地は、町の中心部にある『レイズィ商会』。

 そこが、『鮮血の牙クリムゾンファング』のアジトだという情報を、俺はすでに得ていた。


「……ここにも、神器使いがいるんだろうか」


 俺は死の女神ヴェルナの話を思い返す。


 かつて俺の前に十三の神器を所有していた女──。

 彼女は、より上位の力を持つ神器使いに殺されたのだという。


 それと同じレベルの神器使いが俺の近くにいる、とヴェルナは話していた。


 もちろん、警戒は常にしている。

 もしも戦闘になったら対抗できるよう、悪を狩ってスコアを稼ぎ、残りの神器の解放を目指している。


 ただ、神器使いはどこに潜んでいるか分からない。

 この間のように殺人者の集団の中に紛れていることもあれば、最強と謳われる傭兵が逸れの場合もある。


 当然、これから向かう『鮮血の牙』の本拠にいる可能性だってあるだろう。


 俺だって神器の扱いには習熟してきたつもりだ。

 だけど、以前の神器の持ち主は、俺よりも多くの神器を解放していながら殺されたという。


 ならば、俺も返り討ちに遭うかもしれない。

 その可能性は、脳内に警鐘を鳴らし続けていた。


「だけど──」


 俺は唇をかみしめた。


 一度思い立ったら、どうしても止まらない自分がいたことも事実だった。


 ずっと心に溜めていた復讐の想い。


 普段は半ば無意識に目を背けていたその思いに向き合ったとたん──。

 俺の中から、あふれてきたんだ。


 家族を殺されたことへの怒りが。

 悲しみが。

 無念が。


 そして、復讐心が。




「ここか」


 俺は商会の建物の前で足を止めた。

 四階建ての館で、この町の中では立派な造りだ。


「俺、ここまで来たよ。父さん、母さん、姉さん──」


 空を仰ぎ、つぶやく。

 胸の中をいくつもの思いが去来する。


 父さんと母さんを理不尽に殺され、涙に暮れた夜を──。


 仇を討つため、『鮮血の牙』の単独捜査を行った姉さんが、奴らに乱暴された末に殺されたときの悲しみを──。


 その無念を晴らし、奴らを捕縛するために騎士学園に入学し、才能の差に跳ね返され、絶望した日々を──。


 だけど、俺はようやく『力』を得た。


 奴らを捕まえる必要なんてない。

 俺は単独で奴らを裁くことができる。


「だから、もう少しだけ待っていて」


 俺は一歩踏み出した。


「あいつらを、皆殺しにするから」


 口元に笑みが浮かぶのを自覚し、さらにもう一歩。


「一人残らず。骨も肉も、原型すら残さない」


 燃え上がるような復讐心が、全身を心地よくたぎらせる。


 俺は、進む。

 満面の笑みで、進む。


「さあ、今から──」


 みんなの無念を晴らしてくるからね。


「復讐を、始めようか」


 そして、正義を。


 俺は『レイズィ商会』の建物内に入った。




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