9 王立騎士団にて2

 執務室に戻ると、すぐに彼女を訪ねてくる者がいた。


「よう隊長、いるかー? 『殺戮の宴』掃討戦で唯一生き残った騎士を連れてきたぜ!」

「戻っておりますわ。どうぞ」

「邪魔するぜー」


 ドアが開き、大柄な女騎士が入ってきた。


 肩のところまで伸ばした燃えるような赤い髪に、褐色の肌。

 身長は二メートル近く、大半の男性騎士を凌駕する体格である。


 ミカエラの部隊で副隊長を務めるデルフィナだった。


 豪放な性格で、下の者への面倒見がよい姉御肌。

 そのため、部下たちからの信望も厚い。


 剣腕や指揮能力もミカエラに準ずる実力者であり、他の隊ならば隊長を務めあげられるだけの女傑だった。


 そして、もう一人──。


「し、失礼いたします」


 デルフィナの背後から歩み出たのは、十六歳くらいの少女だった。


 王立騎士学園の制服姿だ。

 長く伸ばした金色の髪を青いリボンでまとめている。

 明るく溌剌とした印象の美貌には、緊張の表情が浮かんでいる。


「王立騎士学園一年、ジークリンデ・ゼルーネと申します」

「お名前は存じておりますわ」


 微笑むミカエラ。


 ジークリンデは、新入生でありながら、またたくまに学園ランキング一位まで駆け上がった逸材であり、学内では『女帝』の二つ名で呼ばれているという。

 こうして対峙していると、ごく普通の、生真面目そうな少女にしか見えない。


 だが、ミカエラは見抜いていた。


 ジークリンデのちょっとした動きやたたずまいから、高い剣技を秘めていることが推測できる。

 動きに隙も無駄もない。


 王立騎士団で三強と謳われるミカエラとて、彼女と同い年でここまでの動きを会得していたか、どうか。


「おいおい、縮こまってるじゃねーか。そんなにビビんなって。うちの隊長は優しいからよ」


 デルフィナがジークリンデの背中を、ばん、と叩いた。


「きゃあっ」


 悲鳴を上げてよろけるジークリンデ。


「デルフィナさん。あなたの力で叩いたら、彼女も驚いてしまいますわ」

「あ、つい力が入っちまった。悪い」


 苦笑するデルフィナ。


「い、いえ、私は……大丈夫です」


 よく見ると、彼女はすでに隙のないたたずまいに戻っている。


 よろめいたかのように見えたが、次の瞬間にはデルフィナの力を上手く逃がし、一瞬にして体勢を立て直したのだ。


(やりますわね、この娘──)


 ミカエラはすっかり感心して、頼もしき後輩騎士を見つめた。




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