8 王立騎士団にて1

 宝玉はまばゆい光を放ち、弾けた。


 光が実体化し、優美な細剣となってミカエラの手に握られる。


祝福を灯す正義の剣アルジェラーダ』。

 ミカエラが所持するクラスS神器である。


「ノエルさん、せめてこの光をあなたへの手向けに」


 細剣アルジェラーダから、柔らかな光が満ちあふれた。


 ノエルが、死後の世界で安らかに過ごせるように。

 そして自分たちのことを、穏やかに見守ってくれるように。


 そんな祈りを込めた光だった。




 ミカエラは墓地を後にして、隊舎へと向かっていた。


 今日は演習を予定している。

 隊長である自分が遅れるわけにはいかない。


 と、前方から数人の騎士が歩いてきた。

 いずれも三十歳前後の男の騎士たち。


「これはこれはミカエラ隊長」


 男たちが意味ありげにニヤニヤと笑った。


 下卑た視線が胸元や腰回りに注がれるのを感じる。

 こんな視線を浴びるのは慣れていた。


 女の騎士隊長に対して、無遠慮に邪まな視線を投げてくる男など腐るほどいたのだから。


「以前は娼館にお勤めされていたとか」

「そのころに娼婦と客としてお会いしたかったですなぁ」

「美しいミカエラ隊長にお相手していただいた男たちが羨ましいですなぁ」

「まったくだ、はははははは」


 男たちがあからさまな嘲笑を浴びせる。


 階級が上の者に対する態度ではなかった。

 それだけ軽く見られている、ということだろう。


「私の過去を蔑むなら、お好きになさってくださいませ」


 ミカエラは微笑んだ。

 まるで貴族令嬢のように優雅で気品のある笑み。


「残念ながら、娼婦であったのは昔のこと。あなた方のお相手をすることは叶いません。今は騎士ですので、剣でのお相手ならいくらでも受けますが?」


 微笑みを浮かべたまま、剣の柄にゆっくりと手をかけた。


「っ……!」


 男たちの表情から笑みが消えた。


 まるで蛇ににらまれた蛙だ。


「し、失礼……しました……っ」


 たちまち汗だくになり、直立不動の体勢を取る彼ら。


 まったく、とミカエラは内心でため息をついた。


 本気で喧嘩を売る度胸もないなら、わざわざ本人の前でくだらない話をしなければいいのに──。




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