7 情報入手

 俺は男から『鮮血の牙』の話を聞きだした。


「……なるほど、大体のところは分かった」


 内容を整理すると、


・組織の構成員は末端まで含めると150人ほど。

・大半が町のごろつき、チンピラレベルだが、中には王国騎士団の騎士崩れや手練の傭兵もいる。

・アジトは町の中心部にある、それなりの規模の商社内部。


 これくらい分かれば十分だ。

 あとは一人一人、罪を暴きながら殺し回るだけだった。


 当然、俺の両親や姉さんを殺した者も、その中にいるだろう。


 これから行う戦いは正義であり、同時に復讐でもある──。


「し、知ってることは全部話したし、見逃してくれよ? な? な?」


 男が震える声で俺に縋りつく。


「見逃す?」


 あり得ない話だった。

 俺は片手で強引に男を突き飛ばした。


「ひ、ひいいっ……ま、まさか、殺さないよな? や、約束したよな……?」

「お前たちのような悪と交わした約束を、守る必要があるのか?」


 俺はヴェルザーレを振りかぶる。


「ふ、ふざけるなっ……! 最初から約束を守るつもりなんてなかったのかよ……!」


 恐怖に震えながら、男は叫んだ。


「こ、この人でなしがぁっ!」

「お前にそれを言う資格があるのか?」

「や、約束を守れよぉっ……!」


 男はボロボロと泣いている。


 哀れみも悲しみも感じなかった。


「死ね」


 俺は冷ややかに槌を振り下ろした。


「助け……ぎゃ、ぷ、ぅ……っ……」


 苦鳴と悲鳴。

 肉が潰れる感触。

 吹き出す鮮血。


 どれも、すでに見慣れた光景だ。


 俺は『悪人の駆除』という『作業』を終え、踵を返した。


 いったん宿に戻り、小休止を取ってから、今後の活動スケジュールを練るとしよう──。


    ※


 SIDE ミカエラ



 フリージア王国、王都。


 その一画に広大な墓地がある。

 国のために戦い、命を落とした者たちを弔うための墓地である。


「安らかに眠ってくださいませ、ノエルさん。あなたが最後まで貫いた騎士道は、私たちが受け継いでいきます」


 墓石の前で、一人の女騎士が深々と頭を上げ、祈っていた。


 豪奢な金色の髪を縦ロールにした、気品のある美女。

 きらびやかな銀の騎士甲冑に、赤いマント。

 しなやかな筋肉で引き締まった細身の体は、どこか肉食獣めいた雰囲気をまとっている。


 ミカエラ・ハーディン──弱冠二十七歳にして、王立騎士団の一隊を束ねる騎士隊長だ。


 墓石に刻まれた名は、ノエル。

 ミカエラの隊に所属する女騎士だった。


 先日、ラグル市の第七十一区画で行われた、『殺戮の宴キリングパーティ』を称する殺人者集団の掃討戦に、ノエルは参加していたのだ。


 本来なら別の隊の仕事だったが、相手は殺傷能力に長けた集団ということで、他の隊からも腕利きの増援が欲しいということで、ミカエラの隊からはノエルが派遣された。

 結果、彼女は『殺戮の宴』のメンバーから不意打ちを受け、命を落とした。


 ミカエラにとって彼女は、王立騎士学園の後輩であり、プライベートでは友人でもあった。


「ああ、ノエルさん……」


 垂れ目がちの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「我が神『正義の神アル・レーア』よ。勇敢に戦い、散っていった同志に、祝福の光を!」


 ミカエラは右手を高々と掲げた。


 その手から、宝玉が飛び出す。

 表面に「1」と刻まれた宝玉だ。




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