5 故郷へ

「その後も、ときどき──」



「……ミゼルくん、なんだか顔が怖い」


 レナの、心配そうな声がした。


 ハッと現実に意識を戻すと、レナが俺をジッと見つめている。


「そうか?」

「思いつめた顔だもん。初めて会ったときにも、そんな顔してたよね」


 レナはますます心配そうに言った。


「少し考え事をしていただけだ」


 俺は首を左右に振った。


「あ、それと──俺はしばらく里帰りすることにした」

「えっ、急にどうしたの?」

「ちょっと用事ができたんだ。一週間くらいで戻ってくる。明日、学校に欠席の届け出をしてくるよ」

「師匠、しばらくお休みするんですか?」


 と、ジークリンデがたずねた。


「──いつからいたんだ?」


 気配をまるで感じなかった。


「というか、師匠はやめてくれ」

「レナ先輩と師匠が仲睦まじく語らっているのを物陰から見ていました」


 ジークリンデが淡々と告げる。

 レナが照れたような笑みを浮かべた。


「や、やだなー、リンデちゃん」

「ちょっといい雰囲気でしたよ、レナ先輩」

「ほ、本当っ!?」

「ちょっとというか、あと一押しでいちゃらぶになりそうな感じです」

「いちゃらぶっ! ついにっ!」

「ついにです」


 二人は俺を置いて勝手に盛り上がっていた。


「うふふふふふふ、そっかー、そう見えちゃうかー。やっぱり、いちゃらぶな雰囲気は隠せないもんだねー」


 レナの顔がこれ以上ないくらい、にやけていた。


 平和な風景に気持ちが和む。

 だけど和むのは、ここまでにしておこう。


 今日の夜、俺は──。


 鬼に、なる。




 俺はラグル市から懐かしいバーグル町へと戻ってきた。

 フリージアでも最大規模の都市のひとつであるラグルに比べると、ずっと小規模な田舎町といった風情である。


 何もかもが懐かしく、そして──忌まわしい。


「……っと、感傷に浸るのは後だ」


 俺は小さく息を吐き出した。


「さっそく狩りに行くか」


 まずは下級の構成員を一人二人始末しよう。

 殺す前に、組織の情報をある程度得てから、だが、


 もしかしたら──奴らの中に多少の凄腕が混じっているかもしれないな。


 だが、まあ問題はないだろう。


 英雄と謳われたガイウスでさえ、俺には歯が立たなかった。

 まさか、奴らの中にガイウス以上の猛者がいるとも思えない。


 ならば、やることは一つ。


「奴らを一人残らず狩り尽くす──」


 考えただけで、気分がどこまでも高揚する。


 待っていて、父さん、母さん、姉さん。


 今こそ、みんなの恨みを晴らすときだ。

 今こそ、復讐を果たすときだ。


 そして今こそ──正義を為すときだ。



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