2 力の差

 騎士学園の授業は大きく分けて座学と実技だ。

 その実技の授業で、俺はレナとペアを組み、模擬戦をやることになった。


「お手柔らかにね~」

「ああ、よろしく頼む」


 俺たちは一礼して向かい合う。

 そして──。


「は、速い──!?」


 レナは、まさしく雷光のごとき速度で突進してきたのだ。

 俺は、まったく反応できない。

 気が付いたときには、彼女の剣が首筋に押し当てられていた。


 一瞬にして、勝負ありだった。


「……くっ」


 ぎりっ、と奥歯を噛みしめる。


 とんでもない強さだ、この女……!

 おそらくは天才なのだろう。


 だけど、俺だって──強くなりたい。

 いや、強くならなきゃいけないんだ。


 だから、これくらいで投げ出してたまるか。


「も、もう一本!」

「ん。いいよ~」


 レナは気楽な調子で受けてくれた。


 さっきの引き締まった表情とは打って変わり、穏やかな笑顔。

 どこまでも自然体だった。


 あるいは、これこそがレナの強さの秘密なんだろうか。


「追いついてやる──いや、追い越してやる……!」


 俺は闘志を燃やし直し、美貌の少女騎士とふたたび対峙した──。




 三十八連敗。


 それが俺とレナとの対戦成績だった。


 ……よく三十八回も付き合ってくれたものだ。

 レナには感謝しかない。


 まあ、ほとんどが瞬殺状態だったから、三十八試合といっても、そこまでの時間は擁していないのだが……。


「まるで、歯が立たなかった……」


 唇をかみしめて、うめく。


 渾身の打ちこみも、考えつく限りのフェイントも。

 先手必勝で打ちこんでも、後の先でカウンターを狙っても。


 あらゆる戦型がまったく通用しなかった。


 力の差がありすぎる。

 次元が、あまりにも違いすぎる。


「……どうしたの、ミゼルくん。すごく暗い顔して」


 レナが心配そうにたずねた。


「今ので落ちこんでる? で、でも、これから訓練すれば、きっと……」


 必死でフォローしようとしてくれていた。

 その心遣いはありがたいが、やっぱり気持ちは晴れない。


「きっと……」


 俺の表情を見て、レナが口ごもった。


 きっと──なんだろう?


 俺は一生修業しても、彼女の足元にも及ばない。

 剣を合わせるだけで、そんな残酷な現実を悟ってしまった。


「どうすれば、強くなれる……!?」


 悔しい。

 空しい。


 自分の無力さが。


「ミゼルくん、ちょっと思いつめすぎじゃないかな」


 戸惑ったようなレナに、俺は言葉を返せなかった。


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