25 英雄殺し



「あ、ぎぃ……っ……!?」


 俺が振り下ろした巨大槌ヴェルザーレは、ガイウスの上半身を完全に叩き潰した。


 頭蓋が砕け、脳みそがこぼれ出ている。

 首から下もぐちゃぐちゃで、肉片と骨と臓器の入り混じったものが扁平に広がっている。


 当然、即死だ。


 世界最強の傭兵と謳われていたこの男も、最期はあっけないものだった。


「つっ……」


 右腕に鋭い痛みが走った。


 どうやら潰し損ねた光刃がかすめたらしい。


「──英雄の、最後の意地というわけか」


 俺は小さく息をつき、踵を返した。


 いつまでもこの場所にいる意味はない。


 いや、一刻も早く立ち去らないと、俺が殺人事件の容疑者として手配されてしまうだろう。


 何しろ、普段殺している悪人たちよりも圧倒的に知名度のある男だ。


 英雄殺し──。

 そんな悪名とともに世界中から追いまわされるのは御免だった。




 二十分後、俺は騎士学園の男子寮に戻っていた。


「ふう」


 中庭の井戸で水をくみ、傷口を洗う。


 思ったより深く、右の上腕部を切り裂かれていた。

 戦闘の興奮や高揚で薄れていた痛みが、今になって大きくなる。


「──ミゼルくん?」


 声がして振り返ると、レナが立っていた。


 ……前にも、こんなことがあったな。

 俺が初めて神器を授かり、悪人たちを狩り、寮に戻ったところで彼女に声をかけられたのだ。


 あれから随分経つような気がするが、考えてみれば一、二週間くらい前の出来事だ。


「ん、どうしたの、ボーっとしてる感じ?」


 レナが不審げに俺を見つめた。


「はっ、まさか、あたしに見とれてたっ? これは恋の予感……!」

「いや、見とれてはいない」


 言いつつも、少しホッとする。


 いつも通りの彼女の反応を見て、気持ちが穏やかに安らいでいく感じがした。


「……ふーん」


 レナは不機嫌な顔だ。


「そこまで思いっきり否定しなくても……ちょっとは照れてくれてもいいのに……ぶつぶつ」


 何か彼女の気に障るようなことを言ってしまったんだろうか……?


「あれ、怪我してるじゃない!」


 と、レナが俺の右腕に視線を向けた。


「ああ、ちょっと、その……転んだんだ」


 我ながらベタな言い訳だと思いつつ、告げる。


「あたし、手当てするね」

「いや、別に──」

「自分ではやりづらいでしょ。遠慮しないで」


 レナは微笑んで、俺の側に歩み寄った。

 傷口をあらためて洗い、丁寧に消毒し、包帯を巻いてくれた。


「ありがとう」

「えへへ、お安いご用だよっ」


 レナは元気よく答えた。


 そんな彼女の笑顔を見ていると、戦いで殺伐としていた気持ちがゆっくりと解け、温かく癒されていくような心地になる。


 そういえば──。


「初めて会ったときも、こんな感じだったな……」


 記憶が、自然とさかのぼっていく。

 そう、あれは一年ほど前のこと。


 俺が神器を手に入れる前、自分の才能のなさに打ちのめされていたころの話だ──。





※ ※ ※


次回から第5章になります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

次章開始まで少しお時間をいただき、次話掲載は12月1日(火)の昼12:00予定です。

つまりは──カクコン開始日ですね!


よろしければカクコン始まったら、フォローや★など入れていただけると嬉しいです~!

読者選考、通るといいなー……★やフォローで足きりがあるらしい噂なので、なんとか……がんばります……!(遠い目)

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