24 神の槌VS鬼王剣5、決着

 こんな奴に殺されてたまるか──。


 ガイウスの中から『生』への執念が、爆発的な勢いで湧き上がって来た。


 忌々しいが、確かに戦況は自分に不利だ。

 次の瞬間にも、自分の命が失われても不思議ではない。


(だが! そんな死線ならいくつも超えてきたんだ、この俺は!)


 剣の修業も、戦場の経験も。


 常人には計り知れないほどのものを重ねてきた。


 その自分が、ここで単なる雑魚のように──名もなき一般人のように、あっさり死んでたまるものか。


「お前がどれだけのものを積み重ねてきたのか──確かに、俺には分からない」


 ミゼルが冷ややかに言った。



「だが、それがどうした」


 赤く輝く左目が、ガイウスを見据えている。


 まるで死を司る神のような──透徹な瞳だった。


「英雄だろうと、聖人だろうと──犯した罪は、罪。俺にとっては、等しく悪だ」


 巨大な槌が今にも振り下ろされそうだ。


 ガイウスは恐怖に震えながら、それを見上げる。


「く、くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 怒りの雄叫びとともに、地面を蹴った。


 土埃が盛大に舞う。


「……!?」


 もちろん、こんなものでは目くらましにはならない。

 だが、一瞬──ほんの一瞬だけ、ミゼルの動きが鈍った。


 反撃に転じるには足りない、わずかな時間。

 ただし、


「うぉおおおおおおおっ……!」


 ガイウスはミゼルに向かって拳を繰り出す。

 ──と見せかけて、いきなり地面を転がった。


 落ちている『鬼王剣』を拾う。


「英雄にしては随分と小ずるい戦い方だな」

「意外だったか? おかげでお前の隙をつけた」


 ガイウスはニヤリと笑って剣を構えた。


「正面からの戦いを選択したか」


 ミゼルの表情は変わらない。


「武器を拾ったところで戦況は変わらない。そうでなければ、易々とは拾わせない」

「黙れ! 俺は神器を得て強くなったんだ! 誰よりも強くなったんだ! お前なんぞにぃぃぃぃっ!」


 怨嗟のこもった絶叫だった。


 自分は英雄だ。

 ミゼル相手に勝ち筋が見いだせないままだが、こんなところで死ぬ運命のはずがない。


「ならば──死中に活を見出すまで!」


 突き出した長剣がまばゆい輝きを放つ。

 無数の光刃がいっせいにミゼルに向かった。


「残念だったな、英雄殿」


 ミゼルが無造作に巨大槌を振り下ろす。


「それはただの破れかぶれだ」


 その軌道に沿って、不可視の力が光刃を薙ぎ払い、打ち砕く。


 二度、三度。

 巨大槌が旋回するたびに光刃が撃墜されていく。


「自分こそが最強? ただの幻想だ」

「てめえの強さは、神器の力だろうが! てめえ自身が俺より強いわけじゃねえ! 調子に乗りやがって……」


 声が震える。


 違う。

 こんなことが現実に起こるはずがない。


 自分は英雄だ。


 過去も現在も、そして未来も──。


 だからこんなところで死ぬはずがない!


「その通りだ。だが、それがどうした? 現実に、俺はお前を殺せるだけの力を得ている。だから、使う。悪を殺すために──遠慮なく。躊躇なく。容赦なく」


 巨大槌が振り下ろされる。


 避けられない──。


 あり得ない!

 俺の英雄伝説は、これからも続くんだ!


 これは何かの間違いだ!


 俺は英雄ガイウ──。


 無数の思いが次々に湧き出る中、


 ぐしゃり。


 嫌な音が聞こえた瞬間、ガイウスの意識は四散した。



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