20 神の槌VS鬼王剣1

「俺の光刃を避けたか。さすがに俊敏性が高い。しかも、神器をもう一つ持っているとは……」


 ガイウスがうなった。

 おそらく、あの槌こそは『殺戮の宴』のメンバーを惨殺した神器なのだろう。


「だが──俺の神器の敵ではない!」


 長剣を掲げ、叫んだ。


 もちろん刃が届く距離ではない。

 しかし、そもそも『鬼王剣きおうけん』は剣ではない・・・・・


「弾け散れ!」


 強烈な意志を込めて叫ぶ。


 すべてを壊し、殺す──その意志こそが、破壊の神ジャハトマの神器をより強力に発動させるための鍵だ。


 こうっ……!


 刀身から黄金の輝きが放射状に広がった。


「これは──」


 ミゼルの表情がわずかに変わる。


 おそらく今までのように『斬撃』が飛んでくることを予測していたのだろう。


(残念だったな、ミゼル)


 ガイウスは内心でほくそ笑む。

 剣の形をしているが、『鬼王剣』はあくまでも『射撃武器』なのだ。


「いくらお前が素早かろうと、逃げ場のない全方位高火力攻撃には対処できまい? ははははは!」


 ガイウスは哄笑した。


 勝った、と確信した。


 最初から──この状況を作り出せるか否かが、勝敗の分かれ目だったのだ。


『鬼王剣』の射撃攻撃を発動する前に、ミゼルに接近されれば、かなり分が悪い戦いになる。

 そうなれば、自分の負けだっただろう。


 だが、ミゼルに近づかれる前に、射撃攻撃を発動できた。

 相手に避けるすべはない。


「俺の勝ちだ! さあ撃ち抜かれて死ね!」

「避けられないなら──」


 だが、この期に及んでもミゼルは平然としていた。


「潰すだけだ」


 巨大な槌を軽々と掲げる。


「すべてを砕け、『死を振り撒く神の槌ヴェルザーレ』」


 そして、振り下ろした。


 槌の打撃部分が、ガイウスの放った破壊エネルギーと衝突し、


 ばしゅっ……!


 そんな音を立てて、消し飛ばした。


「『鬼王剣』の──クラスA神器の攻撃エネルギーを一発で消し去っただと!?」


 驚愕するガイウス。


 直撃すれば、大型の魔獣ですら消滅させる威力の破壊エネルギーである。

 それを一撃で相殺して消し飛ばすなど……ミゼルの槌は一体どれほどの破壊エネルギーを放ったというのか。


 背筋がゾッとなった。


「な、ならば連撃でどうだっ!」


 ガイウスは気を取り直し、長剣をさらに振り回す。


 一撃で仕留められないなら、次々に攻撃を放ち、相手の隙をうかがうまでだ。

 放たれた光刃は、あるいは直線的に、あるいは曲線的に──あらゆる角度からミゼルを襲う。


「無駄だ」


 ミゼルは超重武器である槌を、まるで小枝のように軽々と旋回させる。


 おそらく不可視の破壊エネルギーを放つ特性なのだろう。

 迫る光刃は片っ端から撃墜されていく。


 槌の破壊力とミゼルの反射速度。

 その二つは鉄壁の防御となって、ガイウスの攻撃をまるで寄せ付けない。


「こいつ……!」


 ガイウスの額からぬるい汗がにじんだ。

 最強レベルの傭兵である自分から見ても、ミゼルの身体能力は化け物じみている。

 そこにクラスS神器が加われば、すなわち無敵──。


「なぜ俺を襲う、ガイウス・イーファス?」


 ミゼルが冷たい目でこちらをにらんだ。

 その左目に妖しい赤光が宿る。


「そ、それも神器……か……!?」

「大勢の人間を殺しているな。戦場だけでなく、伯爵のために暗殺のような仕事も請け負って……なるほど」


 ミゼルの口元にかすかな笑みが浮かんだ。

 酷薄な冷笑だった。


「お前の罪は見せてもらった。そして理解した」


 ゆっくりと巨大な槌を振りかぶる。


「お前は、生きる価値のない悪だと──」


 静かに、宣告した。

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