19 神器継承4

 そして──ガイウスは回想かこから目覚め、現実いまと向き合う。


 暴力と凌辱。

 勝利と栄光。


 ガイウスの半生はそれらに満ちていた。

 敗北などあり得ない。


 なのに、今──ガイウスを簡単に打ちのめす男が現れてしまった。


 今のままでは、駄目だ。

 もっと強い力を手にしなければ。


 これからも、暴力と凌辱に彩られた人生を歩むために──。


「だからこそ……俺は強くなる……!」


 自身に言い聞かせる。


「強くなるんだ……今ここで……誰よりも……誰よりもだ!」


 痛みが、少しずつ和らいでいく。

 やがて──。


『神器所有権の移譲を完了』

『所持者:リオネル・ラバンからガイウス・イーファスへ』


 中空に光り輝く文字が浮かび上がった。


「これは」


 まるで十年も使いこんだように、その長剣は両手にしっくりとなじんだ。


「これは──俺の剣だ」


 ガイウスの口元に笑みが浮かんだ。


「うむ。今よりお前が『鬼王剣』の主となる」


 うなずくリオネル伯爵。


「約束通り、私の元へ来い。ガイウス」

「……分かった。いや、分かりました」


 ガイウスは口調を敬語に変える。


 主にかしずく騎士のように、リオネルの足下に跪いた。




 ──以来、ガイウスは伯爵の右腕となり、様々な『仕事』をこなしてきた。

 リオネルの身辺警護はもちろん、政敵の暗殺のような汚れ仕事まで──。


 そして今回は、表立っては行えない調査を任されている。


 リオネルと裏でつながっていた快楽殺人者集団『殺戮の宴キリングパーティ』。

 彼らを殺した犯人を見つける、という調査を。


「まずは逃げられないように、半殺し程度のダメージを与えるとしよう」


 ガイウスは満面の笑みを浮かべ、間合いを詰める。


 ミゼルは以前と同じように漆黒のマントをまとっていた。

 運動能力増幅用の神器だろう。


(だが、無駄なことだ)


 内心でほくそ笑むガイウス。

 互いの距離はすでに十メートルを切っている。


『鬼王剣』の射程距離内だ。


「うなれ我が剣──『鬼王剣』よ!」


 吠えて、長剣を横薙ぎに振るガイウス。


 その刃がまばゆい輝きを発した。

 同時に、無数の光刃が放たれる。


 十メートル内の敵に破壊エネルギーの刃を放つ。

 それが『鬼王剣』の特性である。


「遠距離攻撃タイプの神器か──」


 ミゼルがつぶやく。


 次の瞬間、その体がブレた。

 前の戦いで見せたのと同じ、分身と見まがうほどの高速歩法。


 すべての光刃を避けたミゼルが、ガイウスに突進してきた。

 掲げた右手に、巨大な槌が出現する。


「神器が、もう一つ──!?」


 ガイウスは驚きの声を上げた。

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