17 神器継承2
「神器……これが……!」
ガイウスは伯爵が差し出した長剣を見つめる。
薄緑色に輝く刀身と、東方大陸に生息するモンスター『鬼』をあしらった柄。
「もともとこれは私が破壊の神より授かったもの。私の意志で他者に譲渡することも可能だ」
と、リオネル。
「俺に、この剣をくれるっていうのか?」
先ほどガイウスを打ち倒した、見えない斬撃。
それを放ったのが眼前の長剣である。
ただでさえ卓越した剣技を誇るガイウスが、この剣を手に入れれば──。
「無敵、じゃねえか」
ごくりと喉を鳴らす。
「ただし、神器を継承するためには資格が必要だ」
リオネルが傲然と告げた。
「資格だと?」
「その資格は神器が判定する。もしも資格を持たない者が神器を手に入れようとすれば、死あるのみ」
「……穏やかじゃないな」
うなるガイウス。
「要は、神器に認められればよいのだ。意志の強さ、力、知恵、魔力──なんらかの卓越した『強さ』を持つ者だけが、神器を手にする資格を得る」
「強さなら──誰にも負けねぇよ」
ガイウスは、ふん、と鼻を鳴らした。
「やってやるよ。その剣をよこせ」
「では、手に取るがよい」
長剣を地面に突き立てる伯爵。
「お前の『強さ』を示せ。見事、神器を所有してみせよ」
「言われなくても──」
ガイウスは獰猛に吠えた。
強さへの渇望──。
それが彼の根幹だ。
『鬼王剣』があれば、さらなる強さへと到達できるだろう。
常人では決してたどり着けない、神の領域へと。
ガイウスは剣の柄を握る。
「ぐっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
全身をすさまじい激痛が貫いた。
体がバラバラになりそうだ。
骨が砕け、肉が裂けるような感覚。
常人なら一瞬で精神崩壊するであろう激痛に、ガイウスは歯を食いしばって耐えた。
「心の強さを示せ。魂の強さを示せ。お前の根源を示せ。でなくば、肉体も魂も砕かれるぞ」
伯爵が涼しい顔で告げる。
「俺の根源、だと」
ガイウスがうめいた。
「俺……は……」
激痛によって次第に薄れていく意識の中で、ガイウスの記憶がさかのぼる。
あるいは、これが走馬灯というものなのだろうか──。
ガイウス・イーファスはとある傭兵団に育てられた。
その傭兵団のリーダーが、彼の父親だったからだ。
母親のことはよく知らない。
どこかの町の娼婦らしい、と聞いたが、会ったことはない。
だからガイウスの育ての親はそのリーダーや傭兵団の荒くれ者たちだった。
もともと人一倍体が大きく、力も強かった彼は、自然と剣を持つようになった。
周囲を見ながら、独自に剣を磨き、メキメキと力をつけていく日々。
剣を振るのが楽しく、面白かった。
気が付けば、五歳にしてすでに傭兵団の連中と渡り合うようになっていた。
気が付けば、七歳にしてすでに傭兵団の連中を圧倒するようになっていた。
そして──八歳の誕生日、ガイウスは初陣の日を迎える。
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