15 翌日の学園

 翌日。


「おっはよー、ミゼルくんっ」

「ああ、おはよう」


 俺は校門のところでレナと出会い、挨拶を交わした。


「……ん?」


 彼女が俺をじっと見つめる。


「どうかしたか」

「んんんんっ?」


 さらに俺を凝視するレナ。


「なんか雰囲気が違う……」

「雰囲気?」

「どこがどうとは説明できないんだけど、とにかく何か違うのっ」


 レナが叫ぶ。


「ミゼルくんに……よからぬことが起きたような……」

「一体、なんの話だ?」


 首をかしげてから、気づく。


 もしかして──女神と『そういう体験』をしたことで、俺の雰囲気に変化が起きたんだろうか。

 あるいは女神が授けてくれたという【祝福】にそんな作用があるのか。


「怪しい……要捜査ね」

「おはようございます、レナ先輩、ミゼル先輩」


 今度はジークリンデが挨拶してきた。

 俺たちも挨拶を交わす。


「ねえねえ聞いて、リンデちゃん。ミゼルくんの雰囲気、なんか変じゃない?」

「ミゼル先輩の?」


 レナの言葉にジークリンデが俺を見つめた。


「……私には、よく分からないです」

「えーっ、絶対何か違うよ」

「レナ先輩はいつもミゼル先輩を見てるから……ちょっとした変化にも気づくのかも」

「そうそう、いつでもじっくりねっとりなぶるように見てるからねっ。一緒にいないときも妄想の中でじっくりねっとりなぶるように……!」


 爽やかな笑顔のレナ。

 対するジークリンデは少し引いた様子で、


「それはちょっと……気持ち悪いかも」

「ひどい!?」

「あ、いえ、その……冗談、ですよ?」

「なんで語尾疑問形なの!?」


 そんな二人の掛け合いは、いつも通りに微笑ましい。


 微笑ましい──のだが。


 嫌な予感がするな。

 背中にぴりぴりと軽い電流が走るような感じだった。

 今日は、何かが起こりそうな予感がする。


 俺にとって、あまりよくない出来事が──。




 その日はいつも通りの学園生活だった。

 取り立てて変わったことは何も起こらない。


 朝、嫌な予感を覚えたのは気のせいだったのだろうか。


 ──いや、違う。


 何かが近づいている。

 そんな気配を感じる。


 強烈な敵意。

 悪意。

 そして──殺意。




 その日の授業が終わり、学園を出ると、俺は警戒心を高めた。


 神器を授かってから、幾多の悪人を殺してきた。

 狙われる覚えは、山ほどあるんだ。


 だけど、誰が来ようと俺は揺るがない。


 返り討ちにするだけだ──。


    ※


 SIDE ガイウス


「見つけたぞ、ミゼル・バレッタ──」


 ガイウスは狭い路地裏に入り、つぶやいた。

 数十メートル前方にたたずむ一人の少年の姿を確認して。


 自然と、笑みが浮かぶ。


 どうせなら大勢のギャラリーの前で叩きのめしてやりたいが、そうもいかない。

 今から始まるのは、試合のたぐいではない。


 全力の殺し合いだ。


「……おっと、いきなり殺しちまったら命令を果たせないな。『殺戮の宴キリングパーティ』の連中が殺された件について吐かせないと」


 殺すのは、それからだ。


 伯爵に命じられたのは、犯人の調査。

 ミゼルがその犯人であれば、半殺し程度にとどめなければならない。

 逆に──違っていれば、後はどう処分しようとガイウスの裁量の範囲内である。


「英雄と謳われる俺に恥をかかせた罪は重いぞ、小僧……たっぷりと思い知らせてやる。クラスA神器使いの実力を」


 背負った大剣──神器『鬼王剣きおうけん』を抜き放ち、ガイウスはゆっくりとミゼルに近づいた。

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