11 正義の味方と死の女神

 俺はヴェルナとともに夜の街を歩いていた。

 彼女の望みどおりデートしているのだ。


 ……といっても、ただの散策だが。


「こうやって、誰かと一緒に人間界の町を歩くなんて久しぶり~」


 ヴェルナは俺の腕に自分の腕を絡め、嬉しそうにはしゃいだ。


「あ、久しぶりっていっても、他の男とデートしたって意味じゃないよ」

「別に詮索はしないが……」

「え、気になるでしょ? 本当はじぇらしぃメラメラでしょ?」

「じぇらしぃ……?」

「えへへ、前回は女の子と一緒に歩いたの。というか、男の子と一緒に過ごすのはミゼルくんが初めてだからね。キミは特別だから」

「……なんで、俺だけが特別なんだ?」


 前々からの疑問だった。


「一目ぼれ! ……もう、言わせないでよ」


 恥ずかしそうに頬を染めるヴェルナ。


 どこまで本気なんだか……。

 ふざけているように見えても、相手は女神である。


 もしかしたら、とんでもない深謀遠慮が隠されている可能性だってある。


「ふふふふ、人と神の許されぬ恋……うふふふふふふ」


 ……何も考えてない可能性もあるが。


「話を戻すけど……前回の相手というのは、さっき言っていた『前に神器を与えた女の子』のことか」

「そ。素直でいい子だったな~」

「……彼女は神器をどういう風に使っていたんだ?」


 ふと興味にかられて、たずねる。


「んーっと」


 ヴェルナは記憶をたどるように、しばらく考え、


「そうそう、確か冒険者になったんじゃないかな。いろんなクエストに挑んで──けっこう活躍したみたいだね」

「冒険者……か」

「で、ボクのことは聞いてくれないの?」


 ヴェルナが俺の顔を覗きこむ。


「聞くって、何を?」

「ボクのこと、知りたいと思わない?」

「俺は神器のことが知りたい」

「つれなーい」


 ヴェルナが不機嫌そうに頬を膨らませた。


「もっとボク自身に興味を持ってよ~」

「じゃあ、聞くが……なぜ俺に神器をくれたんだ」

「ん? だから、君を気に入ったから──」

「本当に、それだけか」


 俺はヴェルナをにらんだ。


「神が人間に神器を渡すのは、何か別の基準があるんじゃないのか?」

「……ないよ、そんなの」


 一瞬の間があった。

 ヴェルナの表情からも、一瞬だが笑みが消えたように思えた。


 何かを、隠しているのか──?


「へへへ、こんな時間に二人っきりか?」

「ラブラブだねぇ」

「妬けちゃうねぇ」

「あんまり妬けちゃうから、殺しちゃおっかぁ」


 おどけたような声で、五人ほどの男たちが近づいてきた。

 この付近を縄張りにするごろつきか。


 俺たちは会話する間に、いつの間にか人気の少ない路地裏まで来ていたようだ。

 あっという間に囲まれてしまう。


「女の方は極上だなぁ」

「犯す? ねえ、犯す?」

「当然だろ。そっちの男の手足を切り落としてから、そいつの目の前でたっぷりとなぁ」

「ははははは、楽しくなってきたぜぇ」


 下卑た台詞のオンパレードだった。


「──下がっていてくれ、ヴェルナ」

「ん、どうしたの?」

「悪は、すべて潰す。殺す」


 俺は淡々と宣言した。

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