5 英雄ガイウス5

「くははははは! 今の攻撃はなかなかよかったぞ、少年。褒めてやる」


 ガイウスは豪快に笑ってみせた。


 内心ではヒヤリとさせられたが、態度に出すわけにはいかない。

 英雄ガイウスともあろうものが、一介の学園生にたじろいだなどと──知られるのは、これ以上ない恥辱だ。


 だから、表面上はあくまでも余裕たっぷりに告げる。


「なかなか素質がある。将来はいい騎士になるだろう」

「お褒めにあずかり光栄です、ガイウス様」


 ミゼルが一礼する。

 口調こそ恭しいが、彼の目は射るようにこちらを見据えている。


 闘気というより殺気に近い威圧感。


 だが、ガイウスは気圧されない。


 冷静に自分と相手の戦力を分析する。


(慌てる必要はない)


 そう結論付けた。


 確かにミゼルのパワーやスピードはすさまじい。


 だが、動き自体は単調だ。

 少なくとも剣の技量や体術面なら、ガイウスの方がはるかに上だろう。


「……むっ!?」


 超速の突進から渾身の一撃──というシンプルな攻撃かと思いきや、ミゼルの動きが突然変化した。


 体が、ブレる。


(いや、違う! これは──)


 あまりの高速移動に残像が生じているのだ。


 ミゼルが使っているのは、ごく初歩的なフェイント。

 おそらく騎士学園で最初に教えるようなレベルの単純なものだろう。


 だがミゼルの身体能力で再現されたそれは、もはやフェイントという次元を超えていた。


(まるで幻術か、あるいは分身か……!)


 ガイウスが心の中でうめく。


「……なるほど。単純なフェイントでも意外と効きそうだな。なら──もう少し速くしてみるか」


 ミゼルのつぶやきが聞こえる。

 そして、その動きがさらに加速した。


「なっ……!?」


 ガイウスは呆然とした。


 魔法でも使ったかのように、ミゼルの姿が五つに分裂していた。


 だが、魔法ではない。

 魔力の発動は感じなかったし、何らかのマジックアイテムでもなさそうだ。


 純粋にミゼルの超人的な運動能力だけで為し得た現象だろう。


(信じられん……本当に人間か、こいつ……!?)


 五体のミゼルが別々の角度から斬撃を放ってくる。


「惑わされるな……」


 ガイウスは自身に言い聞かせた。


 分身したように見えても、本体は一つだ。

 それを、見極める──。


「そこだ!」


 ミゼルの動きの癖や予備動作、反射神経に野生のカン──あらゆる能力を総動員して、彼の動きを見切る。

 それでもなお、彼の斬撃を受け止められたのは、半ば偶然のような幸運だった。


「くっ……ううっ……」


 鍔迫り合いの体勢で踏ん張るガイウス。


 ミゼルの斬撃は、すさまじく重い。

 細腕から繰り出されているのが信じられないほどの重さだった。


「止めたか。さすがは英雄ガイウスだ」


 ミゼルは涼しい顔である。


「この人知を超えた能力……まさかお前、神器使い……!?」


 思わずつぶやくガイウス。


「っ……!」


 ミゼルの表情がわずかに変わった。

 押しこみが、わずかに緩む。


「うおおおっ……!」


 ガイウスはここぞとばかりに全身の筋力を使い、ミゼルを弾き返した。

 空中で器用に一回転し、地面に降り立つ黒衣の少年。


「はあ、はあ、はあ……」


 荒い息をついているガイウスとは対照的に、ミゼルは息一つ乱していない。


(勝てん……か)


 ガイウスは素直に認めた。

 少なくとも『アレ』を持ってきていない今、ミゼルに対抗することは不可能だ。




※ ※ ※


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