4 英雄ガイウス4

「いきます」


 短く告げる俺。


 どんっ……!


 通常の約33倍の身体能力をフルに発揮し、地面が爆発するような勢いで踏みこんだ。


 一歩ごとに加速、さらに加速、加速──。


 まさしく一瞬で奴の間合いに侵入する。


「な、なんだと、この速さは──!」


 ガイウスも、さすがに驚いた様子だ。


 俺はすくい上げるような一撃をその胸元へ見舞い──、


「ちいっ」


 ガイウスの前蹴りが俺の手元を狙ってきた。


 剣でブロックしては間に合わないと踏んで、とっさに足を出したのか。

 野生の動物じみた恐るべき反応速度だ。


 パワーで押し切ろうと思えば押し切れそうだが、俺はいったん跳び下がった。


 やはり、ガイウスは強い。

 英雄と称えられるのは伊達じゃない。


「大したものだ」


 それを実感し、俺はニヤリと笑った。


 ここは一つ、俺の練習台になってもらおう。


 この『死神の黒衣』をまとっていると、ほとんどの相手はまったく勝負にならずに簡単に倒せてしまう。

 簡単に、殺せてしまう。


 俺が『黒衣』を全開にして動いても、ガイウスならある程度はついて来てくれそうだからな。


 そうだ、パワーやスピードに任せた戦いじゃなく、もっとフェイントも織り交ぜていこうか。


 さっきのレナやジークリンデとの模擬戦で何度となく見せてもらった二人の華麗な技巧。

 それを俺なりに再現する、という感じで。


 超絶のパワーやスピードに、武の技術が加われば──俺はもっと強くなれる。

 今後も犯罪者を狩り続ければ、またラーミラやザハトのような神器使いに出会う可能性だってある。


 もっと力を磨くんだ。


 もっと、もっと。


 そして、どんな悪が相手でも確実に抹殺できる──絶対的な、正義の味方になってみせる。


    ※


 SIDE ガイウス


(何者だ、こいつは? ただの騎士学園生じゃないのか?)


 ガイウス・イーファスは警戒心をあらわに、前方にたたずむ少年を見据えた。


 艶のある黒髪。

 抜けるように白い肌。

 そして怜悧な容貌。

 芝居の役者じみた漆黒のマントの裾が、風にたなびく。


 一見して、とても猛者には思えない。

 線の細い美少年、といった印象だ。


 ガイウスは傭兵として世界各国の戦場を渡り歩いてきた。

 だが──、


(これほどのパワーとスピードを兼ね備えた奴にはあったことがない。こんなガキが)


 しかも全身から放つ静かな、だが強烈な威圧感。

 それは、まるで戦場で何人も殺してきたような凄みすら感じさせた。


(ただの学生が、なぜ──)


 ガイウスは戸惑うばかりだ。


(とはいえ、この俺の敵ではない。俺はガイウス・イーファスだ。世界で五指に入る──いや、世界最強の戦士なんだ!)




※ ※ ※


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