11 下校と調査

 俺はレナ、ジークリンデと一緒に帰路についた。

 三人とも寮生活で、帰り道が一緒なのだ。

 ちなみに、俺が住む男子寮も二人の女子寮もすぐ近くに建てられている。


「ふふふ、ついにミゼルくんと一緒の下校……ふふふふふ」


 レナははしゃいでいた。

 足取りが軽い。

 今にも飛び跳ねそうだ。


 というか、ときどき飛び跳ねている。

 ……そこまで喜ぶようなことなのか、俺と一緒の下校は?


「レナ先輩、目がきらきらしてますね」

「えへへ、やっと念願かなったんだもん」

「レナ先輩にもついに春が……おめでとうございます」


 ジークリンデが微笑んだ。


「や、やだな、まだあたしの片思いっていうか、えへへへ」

「応援します、レナ先輩」

「ありがと、リンデちゃん」


 何やら楽しげに話している二人。

 仲がいいんだな。


 ジークリンデは、色々とハードな目に遭って間もないというのに……。

 ああやって笑えるのは、本当に心が強いんだろう。


「で、ミゼル先輩はレナ先輩のことをどう思ってらっしゃるんですか」


 ジークリンデが俺に向き直った。


「どうって?」


 戸惑う俺。

 ただのクラスメイトなんだが。


「……その顔。『ただのクラスメイト』とか思ってますね」


 ジークリンデがぼそりとつぶやく。

 なぜかちょっと怒ったように。


「ミゼル先輩って、意外と女性の気持ちには鈍感ですね。いけませんよ、もう」


 なぜ注意されたんだろう?


「ん? あれは──」


 往来に、甲冑姿の騎士が数人立っていた。

 どうやら王立騎士団のようだ。


 時折、通行人に話しかけているが……何かあったんだろうか?


「あら、騎士学園の生徒さんね」


 その中の一人──まだ若い女騎士が声をかけてきた。

 長身で、黒髪をショートカットにした理知的な顔立ちの美人だ。

 年齢は二十歳過ぎくらいだろうか。


「ジークリンデ・ゼルーネにレナ・ハーミット……『女帝』と『迅雷』がそろいぶみじゃない」

「あたしたちをご存じなんですか。二つ名まで……」

「有望なルーキー候補はチェックしてるのよ」


 悪戯っぽく笑う女騎士。


「それに妹があなたたちと同じ学園に通っているし」

「妹?」

「あたしはナターシャ・ミルバ。妹のターニャがお世話になっているわね」

「ターニャ先輩の──」


 学園ランキング3位、ターニャ・ミルバ。

 そう、彼女は殺人鬼『血まみれブラッディダール』から俺を守ろうとして負傷し、現在は入院中である。


「俺は、妹さんに救われました。ありがとうございます」


 深々と一礼する俺。


「そう、ダールの事件だったわね。あたしたちもそのダール関連でここに調査に来ているの」


 と、ナターシャさん。


「えっ」

「先日殺された連続殺人犯、通称『血まみれダール』についての調査よ。リオネル伯爵直々の命令で、ね」


 リオネル伯爵──。

 この辺り一帯に領地を持つ貴族だ。




※ ※ ※

次回から第4章になります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!


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