10 模擬戦終了

「じゃあ、次はあたしね。よろしく、ミゼルくんっ」


 レナが進み出た。


「ふふふ、ミゼルくんと二人っきりで稽古……二人っきり……二人──はっ、だめよ、レナ! 変なこと考えちゃだめ……妄想中止……中止ぃ……はあはあ」


 妙に鼻息が荒いし、俺のことをジッと見つめてくるし──。

 かなり張り切っているようだ。


 妄想とかなんとか言っているのは、今一つ意味が分からないが……。


 レナって練習熱心なんだな。

 この辺の態度は俺も見習うべきだろう。


 運動能力では常人をはるかに超えているが、剣の技量では彼女たちには遠く及ばない。

 俺も、学ばせてもらわないとな。


「ああ、よろしく」


 俺は、今度はレナと向かい合った。


 ──レナはやたらと興奮していて、太刀筋が滅茶苦茶だった。

 精神集中が全然できてない感じだ。


 もちろん、これがレナ本来の実力ではあり得ない。

 今日はちょっと調子が悪かったんだろうか。


「ううう……妄想が暴走気味だった……空回りしちゃった」


 レナはシュンとしている。


「そういう日もある。元気を出してくれ」

「ありがと、ミゼルくん……」




 その後、俺たちは三時間ほど訓練場でトレーニングをした。


「ふう、いい汗かいたね~」


 甲冑を脱いだレナがポニーテールをかき上げ、微笑む。

 汗ばんだうなじが火照っていて、妙に色っぽい。


 少しドキッとしてしまった。


「ん? どしたの、ミゼルくん?」


 キョトンとするレナ。


「い、いや、なんでもない」


 思わず頬が熱くなる。


「ミゼル先輩、レナ先輩、今日はありがとうございました。とても勉強になりました」


 ジークリンデが丁寧に一礼した。


「あたしこそありがとう。二人とも強いよねー。今日こそはリンデちゃんに勝ちたいと思ったけど、やっぱりかなわない……もっとがんばらなきゃね」


 と、レナ。


 今日の模擬戦を振り返ると、俺はジークリンデにもレナにも一本も取らせず全勝だった。

 ただし、何度かヒヤリとさせられる場面はあった。


 運動能力では勝っていても、技術ではまだまだ彼女たちには及ばない。

 ただ、二人と剣を合わせることで、戦いの技法をいろいろと学べたのも確かだ。


 俺の主武器は剣じゃなく槌だけど、応用が効きそうな立ち回りもいくつか会得できた。

 俺にとって有意義な時間だったと思う。


 レナとジークリンデの勝負は実力伯仲という感じだった。

 具体的な勝敗としては、十回に六回から七回はジークリンデが勝つ、という感じだ。


「私もがんばります。もっと強くなりたい──」


 ジークリンデが中空を見つめ、つぶやく。


 先日の戦いでのことを思い出しているのだろうか。

 彼女が求める強さは学園トップなどではなく、あくまでも実戦で通用するためのそれだろうから──な。

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