8 模擬戦

 放課後になり、俺は模擬戦用の訓練場にやって来た。

 ここでレナやジークリンデと待ち合わせしているのだ。


 訓練場内には、五十名ほどの生徒がいる。

 それぞれ数人から十数人のグループで練習をしていた。

 と、


「あ、ミゼルくん、こっちこっち~!」


 奥の方でレナが手を振っている。

 その側にはジークリンデの姿も見えた。


 俺は彼女たちのいる場所までやって来た。


「付き合っていただき、ありがとうございます」


 ジークリンデが丁寧に一礼する。


「お、おい、見ろよ、あれ……ランク1位のジークリンデと4位のレナだぞ」

「一緒にいるのは誰だ?」

「確か……二年のミゼル・バレッタ、だったか」

「顔はいいよな……ランキングは低いけど」

「ああ、確かに……くそ、ハーレムか? まさかハーレムなのか?」


 他の生徒たちの視線が突き刺さるようだった。


 ……レナもジークリンデもその強さと美貌から人気が高い。

 俺は、そんな彼女たちを独占しているとでも思われたんだろうか。


 あくまでも、ただの練習相手として付き合ってもらっているだけなんだが……。


「申し訳ありません。やっぱりご迷惑でしたか?」


 ジークリンデが俺の表情を見て、何か勘違いしたらしい。

 すまなさそうな顔で頭を下げる。


「いや、そういうわけじゃないんだ」

「じゃあ、まず順番に一対一からやる? 最初はあたしとミゼルくんで──」


 言いかけてレナが、


「……って、言い出したのはリンデちゃんだよね。ごめんごめん」


 えへへ、と笑い、ジークリンデの背中を押した。


「最初はリンデちゃんとミゼルくんで一対一、その後にあたしとミゼルくん、最後にあたしとリンデちゃん──って感じでどうかな?」

「分かった」

「了解です」


 俺とジークリンデがそれぞれうなずく。


「じゃあ、あたしが審判やるね。ファイトだよ、二人ともっ」


 レナが俺たちに微笑んだ。

 明るい笑顔に癒されるようだ。


 考えてみれば、ここ数日はずっと血なまぐさい戦いを繰り返していたからな。

 彼女やジークリンデと一緒にいるだけで、心のどこかがホッと軽くなる。


「あの、ミゼル先輩」


 ジークリンデが俺を見つめた。

 真剣な表情で。


「本気で、来てくださいね。私に気を使わず、全力で」

「本気……か」


 とりあえず『黒衣』の簡易バージョンを起動させる。


 本来の特性にはもちろん及ばないが、これでも通常の約11倍の運動能力を発揮できるからな。


「私も、全力を尽くします。今よりも強くなりたいから──」


 ジークリンデから漂う気配は、実戦さながらに張り詰めていた。


「弱くてみじめだった自分と決別したいから」




 俺たちは訓練用の甲冑を身に着けた。

 ダメージ軽減の魔法がかけられており、同じくダメージ軽減の魔法がかけられた訓練用の剣とセットで使用するものだ。


「では──いきます」


 ジークリンデが剣を構えた。

 黄金の髪をアップにまとめ、白い甲冑をまとった彼女は、凛々しい女騎士そのもの。


 雰囲気が、一変する。


 すさまじいまでの威圧感だった。


 こうして向かい合っているだけで、刃で切りつけられているように錯覚する。


 初めて会ったときは、戦場で震えるか弱い女の子という印象だった。

 だけど、今は違う。

 学園ランキングトップの騎士学園生としての彼女が、そこにいた。


「これが──『女帝』か」


 半ば無意識につぶやく俺。


 学園最強の、騎士──。

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