4 正義と女帝と迅雷

「ミゼルくんとリンデちゃんが……ぐぬぬぬぬぬぬ」


 レナが鼻息も荒く詰め寄ってくる。

 一体、どうしたんだ……?


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「待て。落ち着け、レナ」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「別に俺とジークリンデはそういう関係じゃない」


 鼻息もどんどん荒くしていくレナを、俺は冷静に制止した。


「……えっ、本当?」

「ああ」

「です」


 ハッとした顔のレナに、俺とジークリンデは同時にうなずく。


「で、でも……すごく親しげだったじゃない。ミゼルくんとリンデちゃんって接点ないよね?」


 レナは俺とジークリンデを交互に見つめている。

 怒っているような、焦っているような、うろたえているような──なんとも言いがたい態度だった。


「あの、誤解です。私はこの方に師事したくて──その、恋愛のアプローチとかじゃないですから」


 言いかけて、ジークリンデは俺を見つめ直した。


「初めて知りました。お名前……ミゼルさん、とおっしゃるんですね」


 そういえば、ちゃんと自己紹介していなかった。


「ミゼル・バレッタだ」

「あらためまして、ジークリンデ・ゼルーネです。お見知りおきを」


 彼女が上品に一礼する。


「ん? 名前も知らなかったの? じゃあ、そういう仲じゃない……のかな」


 レナが少し落ち着いたように息を吐き出した。


「えへへ、ごめんね。あたしの早とちりだったみたい。リンデちゃん、美人だから……ミゼルくんと付き合ってるんじゃないかと、つい不安に」

「なぜそこで不安になるんだ?」

「そこは複雑な乙女心ってやつだよ、ミゼルくん」


 なぜかレナがドヤ顔をした。


 いや、その前に──。


「二人は知り合いなのか?」

「ええ、模擬戦で何度かお手合わせしましたし、騎士学園同士の対抗試合でも一緒に選抜メンバーとして戦ったこともありますし」


 なるほど、レナは学園ランキング4位、ジークリンデは1位だしな。

 そういうつながりがあってもおかしくないか。


「ねえ、話を戻すんだけど──」


 レナがふたたび俺とジークリンデを等分に見つめ、


「師事ってどういうこと、リンデちゃん?」

「私、ミゼル先輩の強さに感服したんです。なので、私もその強さに一歩でも近づきたいと……」

「そういえば、この間の授業でアーベルくんに勝ってたし、突然強くなったよねー」


 と、レナ。


「アーベル……学園ランク2位『氷練ひょうれん』のアーベル・ヴァイゼル先輩ですか?」

「そ。ミゼルくんの剣、あたしにも見えなかったもん。すごかったよ」

「なるほど……さすがです、師匠」


 いつの間に師匠になったんだ。


 ちなみにアーベルは俺との模擬戦で肘と膝を砕かれた後、長期療養中だ。

『認識阻害の指輪』の力で、周囲はその怪我を疲労骨折だと認識している。


 とはいえ、俺がアーベルに実力で完勝したこと自体は授業に出ていた生徒全員が理解しているようだった。


「リンデちゃん、一年生で学園ランク1位になって、しかも向上心もすごいもんねー。なるほど、ミゼルくんに近づいたのも強くなるためか……ふむふむ」


 レナは何事かを考えているようだ。


「恋心的な何かじゃないならおっけーだね。あたしも手伝うから、ミゼルくんもリンデちゃんと訓練してみたら?」

「えっ」


 突然の提案に俺は驚いた。

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