第3章 騎士学園の日常

1 リオネル伯爵

 SIDE リオネル


 フリージア王国内、リオネル伯爵領。


 小高い丘の上に壮麗な城がそびえていた。

 領内に五つある伯爵の居城の一つである。


 そこに一組の男女がいた。


 玉座に似た椅子に座った壮年の男は、まるで王者のような風格を備えている。


 その足下には、メイド服姿の少女がかしずいていた。

 黒髪を結い上げた、清楚な雰囲気の美少女だ。


「はあ、はあ……素敵でした、伯爵様……」

「お前も素晴らしかったぞ、ベアトリス」


 男──リオネル伯爵は、先ほどまで濃密に交わっていた少女に微笑んだ。


 彼女──ベアトリス・フラルは数えきれない愛人の中で、特に可愛がっている少女だ。

 リオネルの『裏の顔』を知る数少ない一人でもある。


「おかげで昂ぶっていた心が、少し落ち着いてきたぞ」


 ニヤリと笑うリオネル伯爵。


「なにしろ『殺戮の宴キリングパーティ』が全滅したという報告が寄せられたからな」


 ベアトリスは表情一つ変えない。

 跪いたまま、伯爵の足元にしなだれかかっている。


「先日、メンバーの一人である『血まみれブラッディダール』が殺されたが……それに続いて、今度は残るメンバー全員が昨夜のうちに惨殺されたそうだ」


 手口はいずれも同じ。

 頭部や体の各部を巨大な鈍器で粉砕されているという。


「だが、彼らはいずれも一流の殺人者だ。それを十七人まとめて殺せる者が存在するとは……」


 それが、犯罪組織間などでの勢力争いに類するものなのか。

 それとも──犯人が『殺戮の宴』と自分との関係を知ったうえで行ったことなのか。


 後者の場合、犯人の刃はいずれ自分に向けられるかもしれない。


「彼らの中にはクラスAの『神器使い』が二人いたはず。それを打ち倒すとは──犯人も神器使いの可能性が高い」


 ベアトリスは余計な茶々を一切入れなかった。

 そんな出しゃばらない性格を、リオネルは気に入っていた。




「確かに、この地に強大な神の気配が降り立ったのを感じる。お前の危惧は現実のものになるかもしれんぞ、リオネル」




 ふいに、室内のどこかから声が響いた。


 声の主はどこにも見当たらない。

 ただ、すさまじいまでの威圧感が周囲に充満していく──。



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