17 破砕VS蛇鬼1

「先に聞いておきたい。君は神器をどこで手に入れた?」


 ザハトがたずねる。


「私は、異国の神殿を訪ねたおり、そこで神と出会って授けられた。特段の理由はなく、たまたま目についた私にこれを贈ると──そのような気分だった、と」

「……俺も似たようなものだ」


 ヴェルナは俺に神器を授けることを、ただの気まぐれだと言っていた。


 だが、俺はこう考えている。

 神の気まぐれ──それはすなわち、人にとっては『運命』や『宿命』と呼ばれるものだと。


「なるほど。神器を確実に手に入れる方法があれば聞きたかったのだが、君も偶然入手しただけか」


 ザハトは軽くため息をついた。


「他にも神器を手に入れたい、と?」

「当然だろう。神器の力は素晴らしい。これを手にした者は、人を超越した力を得る」


 謳うように告げるザハト。

 その目が血走っていた。


「私は超越者だ。選ばれた存在だ。その力を持って、これからも殺戮を楽しみ続ける。くくくく……」


 紳士的な雰囲気は一瞬でなくなり、血に飢えた殺戮者そのものの表情が顔を出す。


「お前は、神器を持ってはならない人物のようだ」


 俺はヴェルザーレを構えた。


 と、ザハトの背後に、全長五メートル近い巨大な蛇が現れる。


「これが私の神器『百眼ひゃくがん蛇鬼じゃき』だ」


 蛇は鎌首をもたげつつ、とぐろを巻いていた。


 その体は金属でできているらしく、紫色の光沢を放っている。

 さらに体表に無数の目が輝いていた。


 名前の通り、百の眼を持っているんだろう。


「クラスはA。タイプは従者。特性は『探知』──」


 ヴン……!


 蛇型神器の百目がいっせいに妖しい輝きを放った。


「見えるぞ。君の未来が」


 ザハトが笑う。


「未来だと」


 眉をひそめる俺。


「特性は『探知』だと言ったはず。私の神器は、対象の未来さえも探知する」


 ザハトの笑みが深くなった。


「そして私の神器はそれを前提にして攻撃する。君がどこに動こうと、どう攻めようとどう守ろうと──すべてを見切ったうえで攻撃する。どれほど強くても、動きのすべてが読まれれば勝てないだろう?」


 しゃーっ、と鋭い呼気を吐き出し、蛇型神器が襲いかかってきた。


 スピードはそれほど速くない。

 少なくとも『黒衣』をまとう俺の反応速度なら、楽に捉えられる。


 だが──、


「っ……!?」


 避けた方向に、蛇が先回りしてきた。

 俺がどう動くのかを完全に見切ったような動き方だった。


 さっきの説明通り、やはりザハトの神器は未来を読めるのか。


 叩きつけられる牙を、俺は大きく跳び下がって避ける。


「……くっ」


 わずかに避けきれず、マントの裾が浅く切り裂かれた。

 布地の端が舞い、黒い光の粒子となって弾け消える。


「ふむ、思った以上に運動能力が高いな」


 うなるザハト。


「だが、いくら粘ろうと無駄なこと。未来が見える私に敗北はない」


 蛇型神器が威嚇するように、ふたたび鎌首をもたげた。

 そして、ふたたび俺に向かってくる。


 頭突き──と見せかけて、尾の一撃。

 しかも、俺の死角からだ。


「ヴェルザーレ!」


 俺は不可視の『力』を放ち、それを弾いた。


「よく凌いだ」


 ザハトはニヤニヤと笑っている。

 じっくり俺をいたぶるつもりなのか、余裕の表情だ。


「──調子に乗るなよ」


 俺は巨大な槌を構え直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る