11 破砕VS魔眼1

「さあ、惑え。『幻惑の魔眼』──夢幻楼波ミラージュウェイブ


 ラーミラが微笑み混じりに告げた。


 右目の緑光が、ひときわ輝きを増す。

 神器の特性を発動させたんだろう。


 同時に、俺の目の前からラーミラが消えた。


「どこだ──?」


 周囲を見回す。


 常人の約33倍にアップしている俺の動体視力や反射神経でもまったく捕らえられない。

 目にも止まらぬ超スピード──などではなく、俺の認識を改変して、自分を見えなくさせているのか。


 確かに、おそるべき能力だ。

 認識できない相手の攻撃を、防ぐすべはない。


 だが、さっき彼女自身が言っていたように、この能力も俺に完全に作用するわけではないらしい。




『特性は「一定条件下での認識改変」。それによって接近を気づかせず、いかなる相手も葬り去る──あたしが得意とする殺人技法だよ』

『あたしの「認識改変」もこれくらいの距離まで近づくと無効化されちゃうみたいだし、あなたってかなり高クラスの神器を持ってるでしょ? 最低でもクラスAが一つ。もしかしたら神話級とも言われるクラスSも……?』




 さっきのラーミラの言葉を思い返す。


 つまり一定距離まで近づけば、俺は彼女を認識することができるはずだ。

 そこが──攻略の鍵だ。


「ボーっとしてると死んじゃうよ?」


 笑い声とともに、俺の数メートル前方に矢が出現した。

 ラーミラが放ったものだろう。


 やはり一定距離──目測で五メートル程度か──まで近づくと、認識できるらしい。


 ディジンと戦った後で襲撃してきたのと同じように、その矢じりには毒が塗られているようだ。

 直接触れるのは、まずい。


 俺はヴェルザーレから不可視の力を放ち、矢を吹き飛ばした。


 ひゅんっ……!


 背後からも風切り音が聞こえた。


 二本目の矢か。

 振り返りざまに、これもヴェルザーレの力で潰す。


「すごい反応ね。身体能力アップ系の神器かな?」


 ラーミラが感心したように言った。

 あいかわらず姿は見えない。


 さらに三本目、四本目……矢が散発的に放たれる。

 触れないように、片っ端からヴェルザーレの不可視の力で吹っ飛ばしていく。


 ──と、そのときだった。


「ふふん、どこを見ているのかな!」

「ワシが叩き殺してやろう!」


 いきなり声がしたかと思うと、左右からそれぞれ青年剣士とドワーフの老戦士が突っこんできた。


 これも『魔眼』による『認識改変』か。

 こいつらの接近に五メートル内まで気づかなかった。


 青年剣士は二本の曲刀を、ドワーフの老戦士は巨大な戦斧をそれぞれ持っていた。

 ともに一流といっていいスピードだ。


 しかも、左右からの同時攻撃──。


「今度は凌げるかな? ご自慢の運動能力で!」


 ラーミラが笑った。

 てっきり一人でかかってくるのかと思いきや、連係で来たか。


「そんな大きな得物、懐に入れば怖くないね! 僕の双刀で切り刻んでやる」

「そいつを殺すのはワシだ! 潰れろ、人間の小僧!」

「死ねぇ!」


 最後に、二人の声が唱和する。


「確かに俺の得物は取り回しが悪い。間合いを詰められると戦いづらいな」


 俺は左右から迫る彼らを見据えた。


「だから、得物を使わなければいい」


 ヴェルザーレを手放す。


「武器を捨てた!? がっ!?」

「ぐあっ……!」


 青年剣士に蹴りを、ドワーフの老戦士に拳を、それぞれ見舞う。


 格闘術など素人の俺だが、単純に常人をはるかに超えるパワーとスピード任せの打撃だった。

 彼らの技量より、俺の運動能力のほうが圧倒的に上回っていたようだ。


 二人はともに苦鳴を上げたまま、十数メートルも吹っ飛んでいく。

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