9 ラーミラ

『発動に失敗しました』


 声が響いた。


「何?」

『当該神器は、他の高ランク神器等の状態異常無効によって打ち消されます。先ほど、他の神器の起動を確認しました』


 ふたたび声が響く。


「他の神器……だと」


 俺は『指輪』を使うために、それ以外の神器の特性をすべて停止させた。


 ということは、つまり──。


「俺の他に、神器を使う奴がいるのか。近くに──」


 緊張感を高ぶらせ、周囲に気を配る。


「気をつけろ、ジークリンデ」


 背後を振り返った。


「他にも敵がいる可能性がある。可能な限り、自分の身は自分で守ってほしい」

「あ……ああ……」


 ジークリンデは蒼白な顔で震えている。

 あの男たちに凌辱されたショックで呆然自失となっているのか。


 だけど、まだ敵が──殺戮者が他にもいる可能性は高い。


 気をしっかり持たなければ殺される──。


「しっかりしろ」


 俺は静かな口調で声をかけた。

 青ざめた顔のジークリンデをジッと見つめた。

 ぽん、と肩に手を置く。


「わ、私……」


 まるで呪縛が解けたように、ジークリンデの顔に少しだけ赤みが戻った。


「……まず服を着るんだ」

「あ、は、はい……っ」


 全裸のままだったことをあらためて意識したのか、ジークリンデは近くに落ちていた自分の服を拾って、手早く着た。


「怖いか?」


 こくん、と力なくうなずくジークリンデ。


「学園の模擬戦では……敵なしだったのに……私、あんな男たちに……自分から股を、開いて……助かるために、誇りも全部捨てて……体を、汚されて……」


 途切れ途切れにつぶやく言葉には、悔しさと悲しみがにじみ出ていた。


「今は生き残ることだけを考えよう」


 俺は彼女を見つめた。


「大丈夫だ。俺が君を守る。ただ君にも万全を期してほしいというだけだから」

「……ありがとう、ございます」


 この分だと、俺が騎士学園の生徒だということには気づいていないだろうな。


 まあ、俺は二年で彼女は一年。

 学年も違うし、有名人のジークリンデと違って、俺は学園ランキングの底辺近くだ。


 知られていないのも当たり前か。


「へえ、複数の神器を持ってるんだね。反応は四つ……もしかしたら、未解放の神器も持ってたりして?」


 突然、数メートル前方に一人の少女が現れた。

 いつの間に接近されたのか。


「お前は……!?」

「『殺戮の宴キリングパーティ』の一員、ラーミラ。さっきディジンとあなたが戦っていたときにも、挨拶したんだけど──こうして対面するのは初めてだね」


 彼女が名乗る。


 ──なるほど、ディジンを倒した直後に矢を射かけたのは、こいつか。


 肩のところで切りそろえた銀髪に、白い肌。

 身に着けているのは純白のワンピース──と白ずくめの少女だ。


 青く澄んだ瞳が俺をまっすぐに見つめている。

 と、その右目に緑色の輝きが浮かんでいた。


 紋様を思わせる、輝き。

 俺の『審判の魔眼』にどことなくデザインが似ている気がした。


 もしかしたら、こいつが──。


「クラスA神器『幻惑げんわくの魔眼』」


 ラーミラが芝居がかった仕草で両手を広げた。


「特性は『一定条件下での認識改変』。それによって接近を気づかせず、いかなる相手も葬り去る──あたしが得意とする殺人技法だよ」

「お前も……神器を持っているのか」

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