8 破砕VS投擲
「今のはなんだ? 魔法の武具か?」
訝しげな男たちの声。
「答える必要はない」
言いながら、俺は彼らの場所を探る。
一体、どこにいる──。
「へっ、調子に乗るなよ!
「じゃあ、今度はさっきの倍だ!」
宣言通り、先ほどの二倍の量のナイフが迫った。
「これほどの数を同時に投げるとは──」
いや、投げているわけじゃないのか。
まあ、どちらでもいい。
奴らの居場所は──たった今、突き止めた。
「叩き潰すだけだ」
俺はヴェルザーレを思いっきり振りかぶった。
『力』をさらに強め、放つ。
不可視の衝撃波でナイフを弾き飛ばすと、俺は地を蹴り疾走した。
『黒衣』による運動能力増幅を全開。
超速で突進する。
あらかじめ『魔眼』で測っておいた場所へ。
前方に建つ、廃墟同然の家屋に『579』『592』という数字が浮かんでいた。
「なるほど、そこにいるのか」
罪の値が見えるということは、そこに対象が存在するということ。
俺は『力』を込めて、巨大な槌を振り下ろした。
ごがあっ!
派手な破砕音とともに壁が粉砕される。
一瞬前に、そこから二つの人影が飛び出していた。
いずれも太った男たちだった。
顔立ちがよく似ているところを見ると、双子の兄弟かもしれない。
下半身が丸出しになっているところを見ると、やはりジークリンデを犯したのはこいつらだろう。
「な、なんて威力だ……」
「っていうか、俺たちの居場所を、なぜ……」
「投擲魔法か、それとも風系統の魔法か……あるいは両方か」
俺は彼らを見下ろした。
「お前たちの殺人技法に興味はない。ただ、快楽で人を殺すような『悪』は生かしておけない」
ヴェルザーレを掲げた。
二人まとめてつぶしてやる──。
「ま、待って! 待ってください!」
「なんでもしますから! か、金ならあるぞ!」
「許してください!」
「許してくださぁぁぁぁぁい!」
言いながら、その場に這いつくばる彼ら。
今にも、俺の靴でも舐めそうな勢いだ。
「許してください、か。だがお前たちは──彼女が同じ言葉を言っても許さなかったんだろう?」
俺は冷然とたずねた。
ジークリンデの方をチラリと見ながら。
「た、たかが一人、女をヤッただけだろーが!」
「そんなことはどうでもいいんだ! な、なあ、助けてくれよ!」
彼らはなぜか逆上したようだ。
……罪の意識はゼロ、か。
「死ね」
俺は迷わずヴェルザーレを振り下ろした。
「ひっ」
小さく息を飲むような声。
骨が砕ける音。
肉が潰れる音。
彼らは、まとめて物言わぬ肉塊と化した。
「ひ、ひいいいい……」
振り返ると、ジークリンデが俺を見て腰を抜かしていた。
「落ち着け。俺は敵じゃない」
言い含める。
「は、はいいぃ……」
ジークリンデはかなりおびえているようだ。
学園ランキング1位の凛とした少女騎士とは思えないほどに。
よほど恐ろしい目に遭ったんだろうか。
それとも──俺が、恐ろしいのか?
どちらともつかないが、とりあえず認識阻害の指輪を使っておこう。
俺の殺人現場を、彼女は目の当たりにしているからな。
ましてジークリンデは俺と同じ学園の生徒だ。
口止めのためにも、このままにしておくわけにはいかない。
「『認識阻害の指輪』──
俺が彼女たちを殺したことを、そしてここで俺と会ったことを──。
ジークリンデの認識から消し去る。
『発動に失敗しました』
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