7 出会い

 周囲はひどい有り様だった。


 十数人の騎士たちの、死体。

 王立騎士団相手にこんな真似をすれば、ただでは済まないだろう。


 奴らは後先を考えずに犯行に及んだのか。

 それとも──、


「これくらいの殺しならもみ消せる、とでもいうのか」


 ぎりっと奥歯を噛みしめる俺。


 あり得ないとは言い切れないところが悲しかった。


 この国の抱える腐敗が、闇が。


 たった一人だけ生き残った少女を見つけたが、彼女も『無事』とは言い難い。

 全裸の上に、周囲には生臭い精液の匂いが漂っている。


 二人組の男に犯されていたんだろう。

 痛ましい姿に胸が痛む。


「動けるか? 動けるなら、逃げろ」


 俺は彼女に声をかけた。


 夜目にも美しい少女だと分かる。

 長い金髪に青いリボン。


 ん、彼女は──?


 凛々しい顔立ちには、見覚えがあった。


 直接話したことはないが、騎士学園に在籍する者なら誰もが知っている有名人──。

 学園ランク1位『女帝』ジークリンデ・ゼルーネだ。


 王立騎士団になぜ彼女が混じっているんだろう。

 特別に、任務に同行させてもらったんだろうか。

 学園ランク上位の生徒には、そう言った特例があると聞いたことがある。

 と、


「また一人獲物が来たのか」

「ちっ、男かよ。女なら、そいつみたいに犯してやったのに」


 夜闇から声が響いた。


 二人組の男の、声。

 さっきまでジークリンデの近くにいたはずが、いつの間にか姿が見えなくなっている。


 ──どういうことだ。

 俺は警戒心を強め、周囲を見回した。


 声の出どころは分からないが、それほど離れた場所じゃない。


「なら、殺しの方でたっぷり楽しませてもらうとするか」

「とりあえずは、手足をスパッと行ってみるか」


 気楽な口調とともに、夜闇に銀光がきらめく。


 超速で放たれたナイフの群れ──。


「『死を振り撒く神の槌ヴェルザーレ』──起動召喚イグニッション


 俺は即座にクラスS神器を召喚した。

 右手に持ったそれを一振り。


 ヴ……ン!


 うなるような音とともに、不可視の力が発生する。

 俺に迫っていたナイフ群はまとめて吹き飛ばされた。


「な、何、今の──」


 ジークリンデが俺を見て、驚いた顔をした。


「下がっていろ」


 指示を出し、俺は彼女をかばうように前へ出る。

 できれば、全裸の彼女に何か肌を隠すようなものを渡したいが、あいにく何もない。


 この黒衣を渡すわけにもいかないしな。


「あ……ありがとう、ございます……」


 まだ呆然とした様子だったが、ジークリンデは後ろに下がったようだ。

 彼女が巻き添えを食わないように戦わないとな。


 俺はあらためて周囲に注意を払った。

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