3 無双する正義3
「『死神の黒衣』──
宝玉に収納されていた神器が漆黒のマントとなって俺の全身を覆った。
ちなみに──神器を解放する際、別に声に出す必要はない。
心の中で念じるだけで解放できる。
ただ言葉にした方がイメージしやすいし、手持ちの神器が増えてきたため、解放する神器をこうして口に出した方が楽だというだけだ。
「へっ、なんだその芝居じみた格好は!」
人狼のディジンが叫ぶ。
「お前を殺すための衣装だ」
俺はマントをはためかせ、跳び下がった。
いったん距離を取る。
いくら装着者に約33倍の運動能力をもたらす神器とはいえ、相手は人間の運動能力をはるかに超える獣人だ。
無警戒に正面からやりあうのは、いちおう避けておく。
「距離を取ろうったって、そうはいかねえ!」
ディジンが全身をたわめた。
「『
叫ぶのと同時に、その動きが疾風と化す。
高速移動
「なるほど、速いな」
収納モードの、運動能力アップの倍率が約11倍の『黒衣』では反応できなかっただろう。
約33倍にアップした運動能力──その中には反応速度も含まれる──だからこそ、なんとか反応できる。
俺は腰を落とし、迎撃体勢を整えた。
「切り刻んでやるぜぇっ!」
まさしく風を切り裂くようなスピードで、ディジンが俺に肉薄する。
鋭利な爪を繰り出してきた。
だが、そこは俺の間合いだ。
「『
主武器である巨大なハンマーを呼び出す。
右手で振りかぶり、そのまま叩きつける──。
「──!?」
右手に重い感触が伝わった。
ヴェルザーレが巨大すぎて、壁にかすってしまったのだ。
振り下ろしの速度が、急激に鈍る。
「間抜けが! そんなデカい得物を室内で振り回せると思ったのかよ!」
一方のディジンはさらに加速した。
俺がヴェルザーレを振り切るより早く、間合いに侵入しようとする。
「さあ、切り刻んでやる! へへへ、人間の肉を裂く感触ってのは、たまらないんだぜ! 何人殺してもなぁ! これだから殺しはやめられ──」
「お前はもう、誰も殺すことはできない」
俺は構わずヴェルザーレを振り下ろした。
この神器の『特性』を全開にして。
打突部が触れている壁が、
ごがぁっ!
派手な破砕音とともに吹き飛んだ。
「何……!?」
ヴェルザーレは単なるハンマーじゃない。
不可視の破壊エネルギーを放ち、触れるものすべてを瞬時に破砕する特性を持つ。
今のは、そのエネルギー量を一時的に引き上げたのだ。
無形のエネルギーが、弾ける。
壁と天井がほとんど壊れ、ヴェルザーレを振り回す空間ができた。
「部屋が広くなったな。さあ、どうする?」
俺はディジンを見据えた。
「くっ……」
ひるんだようにあとずさる人狼。
逃げる隙を与えず、俺はそのまま槌を振り下ろした。
がづんっ!
衝突音とともに、奴の頭部に命中する。
後は、このままディジンの頭蓋を叩き潰すだけだ──。
「が……あぁぁ……まだだぁっ……!」
その瞬間、奴の全身が変色した。
体毛がメタリックな輝きを宿す。
これは──!?
「『
叫ぶディジン。
ヴェルザーレが奴の頭部に当たったまま止まっていた。
なるほど、硬いな。
だが──関係ない。
俺は構わず力を込めた。
「あぐっ!? な、何……!?」
めき、めき、と骨が砕ける音。
ヴェルザーレが──打突部から発する不可視の圧力が、硬化した肉体すら問題にせず、砕いているのだ。
人間を超える速度があろうと、真っ向から叩き潰す。
人間を超える耐久力があろうと、真っ向から叩き潰す。
それがクラスS神器『
すべてを砕き、すべてを殺す神の槌──。
「潰れろ」
俺は『力』を込めて、ヴェルザーレを打ち下ろした。
「ぎ、ゃぁ……ぁっ……!」
途切れた苦鳴とともに。
人狼の快楽殺人者の全身がひしゃげ、潰れ、絶命した。
「まず、一人」
俺はぐちゃぐちゃに潰れたディジンの死体を見下ろし、つぶやく。
「──かかったね」
どこかから声が響いた。
「何……!?」
反射的に跳び下がったのは、目で見て判断したからではない。
俺の耳が、かすかな風切り音を聞き分けたからだ。
約33倍に増幅された俺の動体視力が、飛来するものを視認する。
一本の矢。
その矢じりにドス黒い何かが塗られている。
おそらく、毒だろう。
「新手か……!」
だが何人来ようと関係ない。
悪は、すべて叩き潰す──。
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