2 無双する正義2

 家に入ると、身長二メートルを超える長身の男が立っていた。


 男の目は俺に向けられていない。

『認識阻害の指輪』によって俺の姿を捕らえられていないのだ。


「『認識阻害の指輪』──効果解除リリース。『審判の魔眼』──探査開始サーチ


 俺は神器に命令を下した。


 認識阻害の指輪は便利だが、いくつかの制約と欠点がある。

 その一つは、他の神器と同時に使えない、ということだ。


 同時に使おうとすると、神器同士が干渉しあい、低ランク神器である『認識阻害の指輪』の効果が打ち消されてしまうようだ。

 だから、目の前の男に『魔眼』を使うときは『指輪』を解除しなくてはならない。


「ん、なんだ、お前は! どこから現れやがった……!?」


『指輪』を解除したことで、男の目に俺の姿が映ったようだ。

 にいっと口の端を歪め、笑う男。


「なるほど、お前か。ザハトが言っていたのは」


 一方の俺は男の罪状を『魔眼』で確認する。


 殺人。

 強盗。

 器物損壊。


 暴力的な言動で他者を傷つけ、自分の欲望を発散する──そして、それに対してなんの罪悪感も覚えないタイプのようだ。


 表示された罪の値スコアは575。


「平たく言えば、社会の害悪だな」

「ああ? このディジン様に舐めた口きいてくれるじゃねーか!」


 俺のつぶやきに、男は敏感に反応した。

 が、すぐに怒りの表情から笑顔に戻り、


「へへへ、ここで待っていて正解だったぜぇ」

「待っていた、だと?」

「仲間がお前のことを感知していたんだよ。俺たちを殺しに来る奴がいるってな」

「感知……?」


 奴らの中に魔法使いが混じっている、ということか。


「全員で一か所に固まって待ち構えるのも仰々しいだろ? だからこの区画内に散らばることにした。それぞれが決まった場所で待ち、見事お前に出会えた奴が『当たり』だ。へへ……つまり、俺だな」


 と、嬉しそうに笑う男。


「まあ、ちょっとしたゲームだな。配置はクジで決めたんだぜ」

「つまり、俺を獲物にした殺人ゲームというわけか」


 呑気な連中だ。

 狩られるのが、自分たちの方だとも知らずに──。

 あるいは、知っていてなお、その状況を楽しんでいるのか。


「はは、運命の神に感謝だ」


 男が愉快げに笑う。


「じゃあ、ここでお前が死ぬのも運命だな」

「ほざけ!」


 男が吠えた。

 その肉体がいきなり膨れ上がる。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」


 男の咆哮は人間の声帯が出すそれとは異なっていた。


 獣の、雄叫び。


 いや、声だけではない。

 その姿も狼の頭部と獣毛に覆われた異形へと変わっていた。


 こいつは獣人──人狼ワーウルフか。

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