第2章 殺戮の宴

1 無双する正義1

 俺が住む街──ラグル市の外縁部、第七十一区画。

 いわゆるスラム街だ。


 小さな家はほとんどが廃墟のようになっていた。

 そのうちの一軒に、十七人の殺人者が集っているのを、俺の『審判の魔眼』が探知した。


 彼らが、いずれも殺人者であることは分かっている。

 ただし、より細かい罪状までは分からない。


 審判の魔眼を使うと、数値自体はかなり遠方でも探知できるが、詳細な罪状については対面でないと計測できない。

 この辺りは、いずれきちんと機能テストをする必要があるな。


 まだ神器を得て数日だから、俺自身も正確には把握できていない。

 ともあれ、今やるべきことは一つ、


「奴らを探し出して、狩る──」


 この力を身に着ける前は、空想の中でしかなしえなかったこと。

 この世に存在する『悪』の駆逐。


 だけど今は、それを実現するだけの力がある。

 だから俺は、自分でも驚くほど躊躇なく、それを実行する道を歩み始めた。


「感謝するぞ、ヴェルナ」


 力を授けてくれた女神のことを思い浮かべる。

 俺の力は、女神の気まぐれによってもたらされたという。


 偶然か、幸運か。

 いや、運命と呼ぶべきだろう。


 だが力を得たのが運命でも、悪人退治は俺の意思だ。

 無惨に殺された父さんや母さんのような犠牲者が生まれないように。

 命を踏みにじられた姉さんのような犠牲者の尊厳を守るために。


「俺は、悪を狩る。すべての悪を、狩り尽くす」


 言葉に出したことで、自分の意思がより明確に、より強靭になっていく感覚があった。




 俺は歩みを進めた。


 周囲を見回すと、時折ごろつき風の男とすれ違う。

 俺みたいな学生が歩いていたら、いきなり身ぐるみを剥ごうと襲いかかってくる者もいるかもしれない。


 ただ、彼らの目に俺の姿は映っていない。

 正確には、映ってはいるが俺のことを認識できていない。


 すでに『認識阻害の指輪』を起動しているためだ。


 俺の存在が彼らの認識から除外されるように設定していた。

 つまり、周囲の人間は俺のことを感知できない状態だ。


 いわば透明人間みたいなものだった。


 無用なトラブルは避けたいのが理由の一つ。

 そしてもっと大きな理由は──、


「これから行うのは、おそらく十七人分の殺人だ」


 俺は言葉に出して、確認する。


「目撃者は可能なかぎりゼロに近づける……いや、ゼロにしなければならない」


 そうこうしているうちに、目的の家が近づいてきた。


 あらためて魔眼で探る。


 家の中にいるのは一人だけのようだった。

 残り十六人はすでにいない。


 が、まあいい。

 まずはその一人とご対面といこう。

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