11 認識阻害の指輪

「これは……?」


 指輪だ。

 昨晩解放した第四の神器──『認識阻害の指輪』が発光している。


「これは……疲労骨折のようですね」


 この授業の担当教官がアーベルの様子を見て、言った。


 疲労骨折?

 いや、明らかに俺の剣で関節を叩き壊しているんだが……?


 だが、なぜかアーベルは『疲労骨折』という扱いになり、そのまま医務室に運ばれていった。

 俺はお咎めなしだ。


「もしかして、これが神器の力か」


『指輪の力で持ち主の有利に働くよう、周囲の認識を修正することが可能です。ただし一定限度がありますので過信は禁物です』


 声が響く。

 ご丁寧に警告付きだ。


 ただ、今回は助かった。


「さっき担当教官に言われて、ミゼルくんはあたしとペアになるんだって。アーベルくんが怪我しちゃったからね」


 と、レナが近づいてきた。

 なるほど、本来なら次はアーベルとレナの組み合わせだったが、奴は医務室に行ったからな。


「というわけで、よろしくね」

「ああ、よろしく頼む」


 俺は緊張気味にうなずいた。


『死神の黒衣』は簡易バージョンでも絶大な運動能力を俺にもたらしてくれる。

 レナに怪我させないように注意しないと、な。




 ──手加減する、というのがこれほど難しく、集中力を消耗するものだとは思わなかった。

 レナとの模擬戦は細心の注意を払い、一勝一敗一引き分けという戦績でまとめることができた。


「すごーい! ミゼルくん、いつの間にこんなに強くなったの?」


 レナが目を輝かせている。

 ……俺の力じゃなく、あくまでも神器の力なので、ちょっとばつが悪い。


「たまたま調子がよかっただけだ」

「そんなことないよ! きっと、すっごく努力したんだね」

「うっ」


 ばつが悪いというか、罪悪感を覚えた。


「ん、どしたの?」

「い、いや……」

「もしかして──」


 レナが俺に顔を近づける。


 まさか、俺の神器のことを何か感づいたのか?


 いや、あり得ない。

 じゃあ、一体──。


「照れてる? ミゼルくんって、意外に可愛いところあるんだね」


 レナが、ふふっ、と微笑んだ。


 ……なるほど、そう解釈したのか。

 まあ、神器のことをバラすつもりはないし、それでいいか。

 と、


「ミゼル、お前ってそんなに強かったんだな!」


 一人の男子生徒が興奮した様子で話しかけてきた。


「なあ、よかったら……俺の相手もしてくれないか」

「あ、ずるいぞ。俺の相手をしてくれよ」

「いやいや、俺に……そりゃ、相手にはならないかもしれないけど」

「ミゼルくん、私の相手もしてー」

「私だってミゼルくんと戦ってみたい!」


 たちまち囲まれる俺。

 ちょっとしたヒーローだった。


 騎士学園は、やはり実力の世界である。

 剣の腕前が高い、と周囲から認められれば、自然と人が寄ってくるということか。


 この力があれば、俺はいずれここを卒業し、王立騎士団に入団することも難しくなさそうだ。


 だけど──。

 入団する必要があるんだろうか。


 今となっては、騎士なんかにならなくても俺が神器を使えば、正義の味方として活動できる。

 騎士なんてものに、もはや固執する必要はないのかもしれないな。


 ならば、俺の行く道は──。

 行くべき道は、どこにあるんだろう。




「俺の進路はおいおい考えるとして──まずは、もっともっと力を得ることだ」


 寮に戻り、俺は宝玉を呼び出した。


 全部で十三個の、輝く宝玉だ。

 すでに解放したものは四つ。


死を振り撒く神の槌ヴェルザーレ』。

『死神の黒衣』。

『審判の魔眼』。

『認識阻害の指輪』。


 五つ目の解放条件はなんだろう。


『必要なスコアは25000です』


 声が響く。

 前回が5000だったから、必要数値は一気に五倍だ。


「増えすぎだろう」


 思わずぼやいてしまった。

 平均的な殺人者の罪の値が500程度だとすれば、五十人だ。


「まあ、やるしかないか」


 俺は審判の魔眼を起動してみる。

 犯罪者を一人一人狩っていくと、移動の問題もあるし、目撃されないように注意しなければならないため、どうしても時間がかかる。


「……いや、目撃者対策は『認識阻害の指輪』があるから大丈夫か」


 とはいえ、やはり一人一人狩っていくのが大変であることに変わりはない。


 たとえば、犯罪者集団を相手にするのはどうだろう。

 そう思って、魔眼で探ってみると──、


「いた……!」


 ここから東南10キロほどの地点。


 罪の値スコア500から800ほどの奴らが、十七人も集まっている。

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