8 学園無双1
「はい、ちゅうもーく」
一時間目の授業は座学だった。
「騎士といっても、さまざまな種類があります。身分もそうですが、今日は主に戦闘スタイルについて語ります。はい、ここ試験にでまーす」
やたらと間延びした語尾が特徴的な女教師──アリシア先生だ。
童顔で背が低く、外見だけならここの生徒といっても通るだろう。
むしろ高等部どころか中等部、下手をしたら初等部くらいのルックスに見える。
「はい、ミゼルくん。騎士の戦闘スタイルを述べなさーい」
いきなり指名された。
「それと、先生は立派な大人ですからね」
軽くにらまれた。
「別に子ども扱いなんてしてませんが」
「先生には君の心の声が聞こえたんです。愛らしくて素敵で可憐で可愛らしくて教師と生徒の禁断の恋に落ちてしまいそうだけど、ちょっと子どもっぽいよな、とか思ってたでしょ?」
「いや、子どもっぽいとは思いますが、恋とかは別に」
「ほら、子どもっぽいって言った!」
むー、と拗ねたように口を尖らせるアリシア先生。
……ちなみにアリシア先生は子ども扱いされると、ものすごく怒る。
もっとも、その怒りかたも子どもっぽくて可愛いのだが。
ともあれ、今は指名されたので、先生に回答しなければならない。
「まずは剣や槍などの物理武器を使って戦う『
答える俺。
ふむふむ、とうなずくアリシア先生。
「次に、魔法を併用して戦う『
俺の回答は続く。
実技では落ちこぼれだが、座学はそれなりにやっているのだ、俺は。
「さらに地方によっては『
「いいよいいよー」
スラスラ答える俺に、アリシア先生が合いの手を入れてくれた。
「そして……まだ各国でも実験段階ということですが、『
その後も、何種類かの騎士のことを説明し、俺の回答は終了した。
「はい、おーけー。素晴らしい回答でした、ミゼルくん」
ぱちぱち、と拍手してくれるアリシア先生。
「みんな、はくしゅー」
ぱちぱちぱち。
……ちょっと気恥ずかしい。
中でもレナは盛大に拍手していた。
二時間目は実技だ。
俺たちは訓練室にいた。
実技の時間は、殺傷能力軽減魔法がかけられた訓練用の剣で、実戦形式の授業が行われる。
生徒同士でペアになり、一戦につき五分を三セット行う。
それを三回繰り返して終了だ。
俺はだいたい全敗するか、運が良ければ一勝できる程度だった。
「さっきはすごかったねー、ミゼルくん」
レナが話しかけてくる。
訓練用の防具やアンダーウェアは体のラインがはっきりと出るデザインのため、彼女のグラマーな体型が浮き出ていた。
「基本的な知識だ」
言いつつ、レナからわずかに目をそらす。
ボディラインがあらわな彼女と正対すると、やはり照れるのだ。
「ううん、あんなふうにスラスラ分かりやすく答えられるのはすごいよ。あたしだったら、なんか緊張しちゃって上手く答えられない。座学自体苦手だし……」
「レナは学園で五指に入るだけの剣の腕があるだろ」
俺は苦笑した。
学内最速を誇り、『
校内外の大会や授業の成績などで決定される学園生たちの序列──『学園ランキング』では4位に入っている。
ちなみにターニャ先輩は学園ランキング3位だ。
「今日は僕と君の組み合わせだね。よろしく、レナくん」
やって来たのは、きざったらしい笑みを浮かべた優男だった。
軽薄そうな外見だが、剣の実力は確かだ。
学園ランク2位、『
一部では、学園ランク1位の『
「……その前にミゼルくんとの組み合わせでしょ」
レナが険しい表情になった。
女性人気が抜群に高いアーベルだが、レナは彼を嫌っているんだろうか。
「ミゼルくん? ああ、そっちが先だったね。これは失礼」
丁寧に一礼するアーベル。
「では、よろしく頼むよ」
言いながら、俺に近づき、
「レナと試合する前に、軽く叩き潰してやるよ。雑魚」
耳打ちしてきた。
「俺の腕前をレナにアピールするための踏み台にしてやる」
……外面はいいけど、性格悪いんだよな、こいつ。
今までにも不快な目に遭わせられたことは、一度ならずある。
ただ悔しいことに、俺の腕じゃどうあがいてもアーベルには勝てない。
──いや、待てよ。
装着者の運動能力を引き上げる『死神の黒衣』なら、あるいは。
もちろん漆黒のマント姿で授業を受けるわけにはいかない。
だけど、前に調べたときに、『死神の黒衣』には簡易装着モードというのがあった。
宝玉に収納したまま、『死神の黒衣』の能力の一部を解放する。
所持者の運動能力を1110パーセントまで引き上げる限定機能。
それを使えば、アーベルなんて敵じゃない──。
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