7 神器解放条件
俺の足元には頭部を粉砕された中年男の死体が横たわっている。
たった今、ヴェルザーレで殺したマグゥの死体だ。
これで、二人目。
初めて神器の力を手に入れてから、合計で七人を殺したことになる。
高揚感や達成感はあったが、罪悪感は思った以上に何もなかった。
心の中でずっと望んでいたことをやっているからなのか。
人を殺すというより、害虫を駆除している感覚。
さあ、次だ──。
『スコア5000に到達しました』
どこからか声が響いた。
同時に、俺の右手がポウッと輝き、『4』と書かれた宝玉が飛び出す。
『神器No.4の解放条件をクリアしました』
『名称:認識阻害の指輪』
『クラス:C』
『タイプ:装備』
『効果:装着者の周囲500メートル内の認識を攪乱。ただし高ランク神器等の状態異常無効によって打ち消されます』
宝玉の表面にそんな文字が出てきた。
『死神の黒衣』や『審判の魔眼』を解放したときと似たような感じだ。
だが、一つだけ違っていることがある。
直前に響いた、声──。
「『スコア5000に到達した』というのは……どういう意味だ?」
「あれ? 神器の声が聞こえるようになったんだ? 早いね~!」
突然、声が響いた。
「なんだ……?」
と思ったら、前方にいつの間にか一人の少女が立っている。
「君は──」
足元まで届く白銀のロングヘアに褐色肌の美しい少女。
「死の女神……ヴェルナ……!?」
「ひさしぶり、ってほどでもないか。やっぱり美少年だね~」
ヴェルナはうっとりと俺を見つめる。
「……なんの用だ」
「あ、つれないなー。ボクと再会できたことをまず喜んでよ。なんなら、熱烈なキッスで歓迎してくれても──」
「用件を聞いている」
どこまでも話を脱線させそうな彼女に、俺はぴしゃりと言った。
何せ俺は殺人を犯した直後だ。
目撃者がいてはまずい──。
そう思って周囲を見ると、物音がいっさい消えているうえに、景色が白と黒の二色に分かれていた。
初めて会ったときと同様に時間が止まっているのか。
なら、誰かに目撃されるかも、という心配はいったん置いておくか。
それよりも女神に聞きたいことがある。
「『神器の声が聞こえるようになった』と言ったな。詳しく説明してくれ」
「ん? そのまんまの意味だよ?」
キョトンとするヴェルナ。
「それより、ボクにキス──」
「俺に有益な情報をくれたら、してやる」
「うん、話す。なんでも聞いて~!」
たちまち目を輝かせるヴェルナ。
……えらく扱いやすい性格だ。
いちおう神様なんだし、もうちょっとこう……威厳みたいなものがほしいところだった。
まあ、俺にはこっちのほうが都合がいいか。
さっそく質問してみる。
「神器からの声が聞こえたのは、今回が初めてじゃない。審判の魔眼からも一度聞こえた。俺が問いかければ、神器は言葉で説明を返してくれる、ということなのか?」
「んー……神器にはいくつかの解放条件っていうのがあってね。それをクリアするごとに、声が聞きやすくなったり、あるいは未解放の神器を使用可能になったりするわけ」
と、ヴェルナ。
「さっき聞こえた『スコア5000を超えた』というのは?」
「スコア──その者が犯した罪に応じた数値だね。君が誰かを殺すたびに、その人間のスコアを加算。一定数値に達したところで神器が一つずつ使用可能になっていくの」
「……つまり、俺が悪人を殺せば殺すほど、多くの神器が解放される、と?」
「そーいうこと」
ヴェルナはにっこりとうなずいた。
「……冷静に考えると、かなり殺伐とした会話だよな」
「うん。でも、ボクってそもそも死の女神だからね。むしろ殺伐としているのがデフォっていうか」
「なるほど……」
「ねえ、とりあえず有用な情報を教えてあげたよね、ボク」
ヴェルナが近づいてきた。
鼻先に甘ったるい匂いが漂う。
彼女自身の匂いだろうか。
絶世の美少女であることも相まって、正直ドキッとした。
俺は頬が熱くなるのを意識しながら、一歩後ずさる。
「照れてる? 意外と初心なんだね。ますます気に入っちゃった」
その距離を詰め、さらに近づいてくるヴェルナ。
「人間って、可愛いね」
信じられないほど整った顔立ちが、俺の眼前で微笑んでいた。
「じゃあ、約束通りキス──」
花のような唇が笑みの形になり、近づいてくる。
ごくり、と息を飲む俺。
「──って、もう時間がないよ!?」
見れば、ヴェルナの姿が、すうっ、と薄れかけていた。
もしかしたら地上にいられる制限時間でもあるんだろうか。
「ほら、早く早く! んー」
唇を突き出すヴェルナ。
「ヴェルナ」
「んー」
「有益な情報をありがとう。助かった」
「んー」
「……時間切れみたいだな」
「あーっ、結局キスしないつもりっ!? ずるい~!」
恨み節を残し、死の女神ヴェルナの姿は完全に消え去った。
悪いな。
……俺も初めてのキスくらいは、もうちょっとちゃんとしたシチュエーションでしたいんだ。
王立騎士学園──。
国の対外的な守りや国内の治安の要である『王立騎士団』を要請するための学園である。
学園は国内に全部で十校存在する。
俺が在籍しているのは、正式名称を『フリージア王立騎士学園第三高等部』という。
学園の校舎は、きれいに手入れされた庭園の中心部に建っていた。
小さな城と見まがうような、立派な建物だ。
俺の学年は二年生。
四つあるクラスの中で『
と、
「おはよう、ミゼルくんっ」
いつも通りに元気のよい挨拶が聞こえてくる。
青い髪をポニーテールにした快活そうな美少女。
レナだ。
「……おはよう」
俺は振り返って挨拶を返した。
「あれ? 目の下にクマがあるよ?」
「ちょっと夜更かしをな」
「よ、夜更かし……まさか、誰か女の人と!?」
レナがショックを受けたような顔をした。
「いや、ちょっとした用事だ」
俺は首を振って否定する。
そう、ちょっとした──悪人狩り。
結局、昨日はあれからさらに三人を殺したのだ。
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