第663話 若者たち
「さあ、始まるじゃもん! 底上げもしてやるじゃもん!」
巨大な扇を振り回しながら、テングが上空から力強い風を吹き荒れさせる。
「魔極真・ナックルアローッ!」
「ぶぎゃろば、ぁあ、がは……スーパーマグナームッ!」
「ぬぐっ!? 魔極真・ラリアットッ!」
「おっごほおお、ぐ、イキかけたぁあ~、筋肉最高!」
「ぶふっ!?」
巨大な鬼と巨大な人間が一歩も引かず、互いにノーガードで殴り合いを続けていた。
常人ならば一撃だけで頭蓋骨粉砕されるような轟音で、見ているだけで顔が青ざめるような光景。
しかし、二人の男は殴り合いを続けている。
「し、信じられねえ、あのオーガ……マチョウさんのパンチをあれだけくらって……」
「ふざけるな、人間! 逆だ……あ、あの、真・鬼天烈序列十位のキンニキさんに……」
飛び散る血しぶきと汗。二人の周囲に誰も近づけない、剛力の世界。
「ふはははは、やるなぁ、マチョウ! 流石は俺好み! しかも、攻撃を避けないというのも鑑賞会通りで気に入った!」
「負けておれんさ。あの、アースとアオニーとやらのぶつかり合いを数日前に見たばかり……ここでどうして自分が退ける?」
「ぐふっ、アオニー……嬉しいねえ、粛清されてハクキ軍失格とはいえ、それでも奴は友……そしてそれを認める男……いいなぁ! いいねぇ! 負かして掘って抱いてやる!」
「正面から堂々と打ち砕く!」
小細工無用。ただ、ぶん殴る。
そこに、一押しの風がオーガたちを包み込む。…
「おほぉ、さらに後押し……キタキタキタキターッ!!!!」
「ぬっ?」
それは、上空のテングが繰り出した、士気高揚の風。
「
「「「「「うおぉおおおおおおおおおおお!!!!! ぶっ殺すッ!!!!!」」」」」
その風がオーガたちのテンションをより一層爆発させる。
「うおぉおおお、誰でもいいからぶん殴りてえ!」
「人間潰す、犯す、ゴロズッ!」
「潰れろ、帝国ぅ!」
ただでさえ人間より遥かな巨躯に膂力を誇る鬼たちが、更に強化されたかのように暴れる。
だが……
「オルァァああああ! 野郎ども、オーガにひるむんじゃねえ! 負けるかよぉ! お前ら、俺についてこいオラぁ!」
「オラツキめ、なんでリーダー気取りで……だが、そうだ! 怯むな! 食い止め押し返せ!」
「どんなに強化されようと、冥獄竜王の師匠より強いわけがねえ!」
「どすこーーい!」
「七つの星の剣を今こそ!」
臆して怯む様子が一切ないカクレテールからの援軍たち。
それもそのはずである。
彼らは天空世界でのバトルを経て、それから毎日復興作業と並行するように血の滲むような鍛錬とスパーリングを、冥獄竜王バサラを相手に熟してきたのである。
「我らも負けてはおれん!」
「そうだ、帝国兵はまだ死んでいない!」
「見せてやろう、選ばれし帝国戦士の力を!」
「我は帝国の上級騎士なり!」
「ああ……だが、やはり敵の数が多い……オーガが数百、いや数千か!」
「なら、一人百殺だ! 素人に負けられるか!」
さらに、カクレテールの復興に携わっていた帝国戦士たちも負けてたまるかと果敢に前へ出る。
「ほぉ、なかなかの気迫じゃもん」
最強のハクキ軍。
その怒涛の前進を前に、駆け付けた援軍は一歩も引かず、テングも感嘆。
「まだ、これだけではないはず! どこに居る、我らディパーチャー帝国の英雄たちよ! 全滅していないのであれば、今この場に集わずしていつ集う!」
さらに、そのぶつかり合いの中でフィアンセイが帝都全土に向けて叫ぶ。
「フィアンセイ姫!」
「姫様!」
それは、当初より帝都に留まっていた帝国の兵たちに向けられた言葉。
その大半が、レンラクキの月光眼の力を防ぐために、ソルジャと共に月の破片に立ち向かい命を懸けた。
だが、全滅していたわけではない。
あちらこちらで倒れ伏していた戦士たちがヨロヨロと顔を上げる。
「皇帝の激も、七勇者の力なくとも、そなたたちの責務は変わらぬ! 祖国を、民を、これ以上の蹂躙を許してはならん! 立って戦え! 今からは、我らと共に!」
「「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
フィアンセイ。帝国の姫自らが槍を持って鼓舞する。
「あは♥ かっわい~わぁん♥ 鑑賞会ではただの残念美人だったけどぉん、挿して犯しちゃうん♥」
だが、その隙を突くかのように、鬼天烈の女オーガ、フタナヤリィマンが襲い掛かる。
「あっ、ひ、姫さま、後ろぉ!」
「姫様ぁああああ!」
ふざけた口調ながらも鋭い突きが繰り出される。
しかし、それがどうしたと、フィアンセィが即座に反応。
最小限の動きのみで、襲い掛かる突きを回避。
「あは、挿させてくれないなんてぇ~食べちゃうん♥」
だが、突きながらも一気に間合いを詰めるフタナヤリィマンは、フィアンセィの懐に飛び込む。
そして、鋭い牙をむき出しの顎を大きく開いて、フィアンセィの顔に噛みつくかのように――――
「見よう見まね、大魔ヘッドバッドッ!」
「ほぶっぅありゃ!?」
その、迫りくるフタナヤリィマンの顔面、大きく開いた上顎と鼻の中間地、人中に向かって、なんとフィアンセイが迷わず頭突きをぶちかました。
「ほぎゃあがあああ、あああ、あああああああ、あああがああああ!?」
予想外の攻撃を急所に叩き込まれて悶絶して絶叫して転がるフタナヤリィマン。
「なぁぁあああ!?」
「ひ、姫様が!? フィアンセイ姫が!?」
「あ、あの、あの可憐なる姫様が、頭突きィィ!?」
そして、その瞬間を見た者たちは敵も味方も問わずに驚愕した。
美しい金色の髪をなびかせた美少女。そして帝国の姫と言う人類の中でも最上位の血筋と身分を持つフィアンセイが、迷わず相手の顔面に向かって頭突きを叩き込んだのだ。
その美しい顔の額には血が染みつき、赤く腫れ、金色の髪もオーガの返り血に汚れてしまっている。
しかし……
「どれだけの血を流そうと、我は……我らは戦うぞ!」
その迷いなく、人の目も気にせず泥臭く根性剥き出しの戦い方に皆は返って「美しい」と見惚れ、同時に心を震わせた。
「た……立つぞ、帝国戦士たちよ! 姫様が前線に出られているのだぞ、寝てる場合か!」
「ふ、ふふふ……甘くみられるな……我らかつての大戦を生き抜いた精鋭……この程度何ともないわぁ!」
「やるぞ! 姫様に続け! 戦争を知らぬ若造たちに、大人の力を見せてやる!」
「遠くから石を投げてるだけだった腰抜けオーガ共がようやく前へ出てきたのだ! 討ち取れ!」
「うおおおお、鬼天烈がなんぼももんじゃぁい!」
「過去の武勇伝ばかり語る老害だのなんだのと言ってウザがっていた国の若者共よ……見るがいい! 我らの魂を!」
「誇りを! 気合を! 根性をぉお!」
「緋剣、氷槍、雷槍、生きている者も死んだ者も今こそ集え!」
七勇者ソルジャにして、皇帝の実の娘であるフィアンセイ。
その才覚だけは決して七勇者に引けを取らず、いつかは人類を代表する傑物となって多くの者を導く存在となると誰もが認めていた。
だが、それはあくまで平時でのこと。
平和になった世で、もはや戦争のない時代でフィアンセイが何かをすることはないはずだった。
だからこそ、かつての大戦で七勇者と共に戦い、ソルジャに従っていた者たちは心を震わせた。
「「「「「帝国戦士、反撃開始だぁぁああ!!!!」」」」」
フィアンセイのこぶが、半死半生だった騎士たちまで立ち上がらせて、覚醒したかのようにオーガたちに立ち向かっていった。
「おお、おお! レンラクキ一人にやられて死んでたくせによぉ……ぶっつぶれてろぉ、人間どもぉ!」
「そうさぁ、蹂躙の権限はぁ、勝ち取ってこそ楽しめるってものだぁ!」
「潰してやるよぉ!」
「だが、アオニーの膝蹴りに立ち向かうアース・ラガンといい……あの小娘といい、根性あるじゃねえかよ!」
その帝国戦士たちの復活の咆哮に、オーガたちも好戦的な笑みを浮かべて迎え撃つ。
激しい衝撃と共に真正面からの突撃で、人もオーガも激しく飛んだ。
「おやおや、アレがフィアンセイ……七勇者ソルジャの娘にして帝国の姫……鑑賞会では残念極まりない勘違いお姫様という印象でしたが……だからと言って、偽物と言うわけではないということですか……」
フィアンセイの激で盛り返す人類。その状況を見て、鬼天烈の一人であるグルグルガネメは興味深そうに呟いた。
「経験として、ああいう指揮官にして将来有望な若者は早々に―――――」
「下郎が!」
「おっとぉ」
だが、妙な企みを企てようとしてグルグルガネメを鋭い剣閃で襲うリヴァル。
「帝国流剣術・
「ほぉ、瞬間九連突きの帝国流! その歳で扱えるとは、あなたも鑑賞会では残念極まりない男でしたが、流石に才はありますねぇ……もっとも、我らの大将が興味を持つアース・ラガンとは比べ物にならないですが」
「…………」
「さらに、鑑賞会でパリピ戦も見ましたし、大体の君の力は分かっています。データは既に集まっています。残念ですが、戦の流れを変えるため……今から三十秒以内に君の全てを看破して討ち取ろう」
その足取り、その身軽さ、それは真剣に技を繰り出すリヴァルの一流の剣技に対してまるで恐怖心を抱かず、それどころかいつ何が飛んでくるかも分かっているかのような余裕ぶりだった。
だが……
「アースと比べ物にならない……そんなこと、俺たちが誰よりも理解していることだ」
「?」
「とっくにあいつより強くなっていたと思っていた勘違いの黒歴史、今でもたまに恥ずかしくて悶えてしまうほど……六覇のパリピに多人数で一斉にかかり、手も足も出せずに惨敗して何もできなかった俺と違い……一人で六覇を打ち負かすまでに至ったアースと比べるなどな……だが!」
「おっ……」
それでも、リヴァルは一足飛びで再びグルグルガネメに剣を振る。
グルグルガネメはひらりと楽々回避するが、リヴァルは構わず追撃する。
「悶えて腐っている場合ではない! 一度立ち止まっていたあいつが、誰よりも早く手の届かぬところまで成長をし続けている! あいつが今度何かあったとき……あいつの友として、必ず力になれるような存在になると誓ったからには……」
「おっ!? っ、この小僧、データよりも、徐々にスピードが――――ッ!?」
「たかだか六覇の下っ端に苦戦すら許されるはずがないッ!!」
「更に早く!? 筋力も、速度も、想定よりもずっと―――――」
リヴァルの振るう剣の速度、更にキレ、力強さがどんどん増していく。
それは当初はデータで先読みして軽々攻撃を回避していたグルグルガネメの表情の余裕が消え、その肌に僅かな斬撃が刻まれていくほどに。
「なぜ、データよりもずっと早く――――」
「アースのブレイクスルーや、ゴウダのメルトダウンなど、自分にはまだまだ至らない。今の自分にできることは、ただ追い込み、集中するのみ!」
「ッ!? 違う、それだけではない! この男、私の動きを逆に先読みして――――」
リヴァルもまた強くなった。
身体能力も剣の腕前も、カクレテールでの鍛錬やバサラとのスパーリングを経て。
その中で、リヴァルがまずようやく到達できたのは――――
――ゾーン
極限の集中。相手の一挙手一投足、僅かな筋肉の動きすらも見抜き、そしてそこから相手の動きを予知のごとく予想し、体を動かす。
「自分の才能のなさに呆れるものだが、折れずに地道をただ行くのみ!」
ただの数値やデータ予測のみでは追い切れず、それどころかデータに従って動く自分の動きを先読みされたグルグルガネメはついにリヴァルの剣に捉えられた。
「ほぉ……アース・ラガン以外は秀才レベルの残念と聞いていたじゃもん……そうではなかったじゃもん?」
「ああ、それは鑑賞会での報じられ方と、アース・ラガンの急成長が早かっただけじゃよ。七勇者は正直ワシも良く知らんが……単純な才能だけなら別にあの小僧や娘どもも引けを取らん。ただ、学ぶ環境と潜り抜けた実戦の差があっただけじゃ」
「アース・ラガンの急成長に劣等感を抱き、実は天才である者が自分が凡人だと思い込んだことで、自惚れを捨てて努力し泥臭く戦う……か……そっちの若者が羨ましいじゃもん……こっちの若者と来たら―――――」
上空で対峙するテングとバサラは、地上で繰り広げられる若い才能を目の当たりにして機嫌よく笑った。
だが……
「つか、さっきから高みからべらべら煩いわい、長鼻ジジイ! さっさと――――ふっとんでおけい!」
「ちぃ!」
そんな笑っていられる余裕はテングにもなく、強烈なバサラのブレスがテングを包み込んだ。
――あとがき――
サポーターことアニッキー石油王部隊1000人まで、あと……60人!!
おいでおいで、みなさんおいで!
『第664話 前時代たち(ネタバレ注意:禁断師弟でブレイクスルー・先行投稿)』
https://kakuyomu.jp/users/dk19860827/news/7667601420016592559
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