第662話 ウォーズ

 バサラに運ばれながら、空をとてつもない速度で移動した。

 その勢いで船は激しく揺れ、多くの者たちが船酔いしてしまうほどであったが、一同はあまりの凄惨な帝都の様子に唖然とする。


「な……何だ……コレはッ! こ、これが……これが帝都だというのか!」


 船から顔を出し、一面に広がる瓦礫の山と捕らわれた民たちの姿にフィアンセイは激しく動揺する。

 美しく、そして愛すべき自身の故郷のこの惨状。

 怒り、悲しみ、あらゆる感情が押し寄せて言葉がそれ以上出なかった。

 

「……なんという……」

「酷い……僕たちの……故郷が」


 普段は口数の少ないリヴァルも、そして同じくこの帝都が故郷であるフーも震えが止まらない。


「あ……わ、私の家が……」

「ああ、子供が、俺の家族はどこに!」

「ち、ちくしょう……こんな……こんな……」


 フィアンセイの要請によってカクレテール復興のために派遣されていた帝国兵たちも、変わり果てた故郷にショックを受けている。


「……ッ……つっ……この光景……」


 生まれ故郷ではないものの、人生の大半をこの地に住んで育ったサディスも眩暈を起こしてフラつく。

 それは単純に自身にとっての思い出の地である帝都のこの悲惨な姿へのショック、さらにはかつて自分の生まれ故郷でもあるシソノータミが戦時中に滅亡したときがフラッシュバックしたのだ。

 そんなフラッシュバックを起こしたのはサディスだけではない。


「……ひどすぎる……かな」

「私らの島よりデカい分、余計に……すね」

「……………」


 共に連れてこられたツクシやカルイやアマエたち、カクレテールの者たちも、かつて天空世界の襲撃によって自分たちの国もまた同じような光景を見せられた。

 その時を思い出し、皆もしばらく言葉を失った。

 だが、一方で……


「お、おおお……おおおお! 姫様! 姫様だ!」

「フィアンセイ姫! そ、それに、リヴァルもフーもいる!」

「来てくれた……来てくれたのよ、英雄の子たちが! 帝国の希望! 未来の勇者たちが!」

「やった! た、助けてくれー!」

「リヴァルくん! フーくん、助けてー!」

「よっしゃぁ! 早くこいつらをぶっ殺して俺らを助けてくれーッ!」

「スゲエ! しかも、アレは鑑賞会の……おお、アレ、ツクシちゃん、カルイちゃん、アマエちゃんもいる!」

「マチョウさんだぁ!」

「何よりも、あのバケモノドラゴン、冥獄竜王バサラまで……すげえ、もう大丈夫だ! 援軍だ!」

「私たち、助かったのよ!」

「ざまーみろ、鬼ども! お前らはもうおしまいだ!」


 捕らわれて絶望の中にいた帝都の民たちは、駆け付けたフィアンセイたちに歓喜し、歓声を上げる。

 一方で、巻き込まれて跳ね飛ばされたオーガたちもまた体を起こして顔色を変える。


「くそぉ、やってくれるぜぇ!」

「バサラァ!」

「アレが、七勇者たちの次世代……若造どもがァ!」

「へっ、ゾロゾロ現れやがってよぉ!」


 壊滅した帝都で虐殺や凌辱をこれからしようとしたところで入った横槍。だが、そのことに対する怒りより、オーガたちは皆がどこか好戦的な笑みを浮かべていた。拳を鳴らし、金棒を携え、牙を剥き出しにして続々と前へ出ていく。



「ふふ、ふはははははははは、来た来た来た来た、来たじゃもん! 伝説よ! そして新時代よ!」



 帝都上空でテングも笑う。

 そう、オーガたちはこれを待っていた。

 


「おぉ、久方ぶりに会ったが……興奮しとるようじゃのぉ……精神修業が足りんのではないのかァ? 長鼻ジジイ」


「笑わずにはいられないじゃもん……失恋ジジイドラゴン」


「コソコソ老後を過ごしていればよいものを、未だに未練で世界に出てきおって……この構ってちゃんめが」


「新時代に構ってもらってハシャいでるのは貴様の方じゃもん」


「だから自分も仲間に入れて欲しいと、ハクキに誘われてホイホイ出てきたわけか」



 テングの前でバサラが笑う。それはまさに何十年ぶりに旧友に再会した同窓会。だが、そうやって冗談を言い合い、昔話に花を咲かせ続けるような関係ではない。

 


「ヘラヘラと……ヘラヘラと何を笑っている貴様ら! このような光景を作り出し……無関係の無辜の民を巻き込み……何故笑っていられる!」


「「おっと」」



 そして、そこで声を大きく荒げたのは、フィアンセイだった。 

 フィアンセイの叫びが、帝都の空気を震わせた。

 無残な故郷に涙を浮かべながらも、その形相は激しい怒りに燃え上がっている。

 その瞬間、バサラの瞳が細くなり、テングの笑みも消える。

 空気が変わった。誰もがそれを感じた。

 

「説教など……聞く気はないじゃもん! 今更理屈や理由を捏ね繰り回す気はないじゃもん! ただ、覚えた怒りは叫ばず、ぶつけるがよいじゃもん! 我らにとことん! 我ら全員それを正面から受け止めるじゃもん! 何故なら、我らは魔王軍最強のハクキ軍! たとえ魔族が人類に破れども、我らハクキ軍は無敗にして最強じゃもん! 時を超え、それを改めて世界に知らしめるじゃもん! 言葉ではなく、力で!」

 

 そして、テングもその声に頷き、巨大な扇を構えて手を上げて、前に振り抜く。


「そうじゃのぉ! ここに来たのは言葉の会話ではなく、ぶつけ合いじゃ! ワシはワシで忌々しい愚か者を成敗してやる。貴様らは貴様らで、派手に怒りに躍れ!」


 バサラがゆっくりと翼を広げる。その巨大な影が地上を覆い、オーガたちの好戦的な笑みがさらに深まる。


「ああ、何故笑うか? 気に食わねえならかかって来いよ、人間共ぉ!」

「戦争知らねえ温室育ちのガキどもに思い知らせてやる!」

「何が七勇者の子供だ! 七勇者なんて、六覇を一人も討ちとってねぇって奴らだろ! ぎゃははははは!」

「来いよ、勇者の子どもたち! 俺たちが新時代を叩き潰してやる!」


 オーガたちが吠える。


「斬って良いオーガ……と判断する」

「うん、アースの友達ではないのはもう分かった」

「ならば、私も容赦はしません」


 リヴァル、フー、そしてサディスが戦闘モードに。


「我らの故郷の復興を支援してくれた恩……返させてもらおう」

「オラァ、俺らのトレーニングの成果を見せてやらァ!」

「アースくんは僕たちの故郷を守り、そしてフィアンセイ姫たちは僕たちの故郷の復興に尽力してくれた……今度は僕たちの番だ!」

「や、や、やるんだな!」


 カクレテールから駆け付けた助っ人のマチョウたちも気合を入れる。

 そして、もうここから舌戦は無用。

 あとはただ……



「全軍、突撃じゃもんッ!!!!」


「蹴散らしてくれる! 我が故郷を侵略せし悪漢共、容赦はせん!」



 テング、そしてフィアンセイの号令と共に、オーガと人間が一斉に駆け出す。


「うらああああ、死ねや人間どもぉ!」

「俺らは、アース・ラガンの友達のオーガと違って、優しくねえぞ!」

「最強のハクキ軍の力を見せてやらァ!」


 オーガたちが金棒を振り上げて、地響きを立てながら前進を始めた。



「戦ァ……」


「開戦じゃもん!」



 戦争がついに勃発した。


「この帝都を……私たちの故郷を……これ以上、穢させはしないッ!」

「メガファイヤストームッ!」

「帝国流剣術・威覇維斬流いっぱいきる!」

「魔極真流・爆裂ラリアット!」


 フィアンセイたちが叫ぶと同時に、一同の体から淡い光が放たれる。怒りと気合が溢れ出し、ついにはオーガたちと激しい正面衝突。



「地獄魔法・炎熱地獄ッ!!」


「ん? ……僕の炎魔法を、炎魔法で飲み込んだ……すごい魔力だ……これは、あのパリピと同じような……あの鬼は?」


「鑑賞会で知ってるわ……あの、ベンリナーフの息子のフーとかいう坊や……お姉さんが本当の魔法を見せてあげるわ、んふ♥ 華麗なる鬼の魔法使い……真・鬼天烈大百下・序列七位! キーマカレイがね。かわい、ちゅっ♥」



 そして、続々と……



「帝国流剣術・威覇維斬流。入射角32度、踏み込み距離1.8メルト、重心移動は0.6秒以内に完了させる。さらに、初動の剣閃は敵の視覚認知限界を0.2秒上回る速度で放たれるため――――」


「……なに? このオーガ……初見で俺の剣を受け止めるか……」


「剣聖の息子リヴァル……残念ながら帝国流剣術は既に研究し尽くしている。我がデータ剣道には通用しない。この、剣究者……真・鬼天烈大百下・序列九位! グルグルガネメが!」



 出てくる。


「蹴散らしてくれる! 我が槍術を受けよ! 帝国流槍術……ッ!?」

「あはん♥ あん、すご~い♥ こんな若い子の可愛い槍ィン、ズボズボってしてぇん♥ 私のぶっとい槍で突いてよし、あなたも私を突いて良し、受けも責めもどっちもいいのよぉん♥ この、オーガ族最強の槍使いィ~、鬼天烈大百下・序列六位のフタナヤリィマンとねぇん♥」


 出てくる。


「ぐわはははは、カクレテールのマチョウ! 鑑賞会で見て会いたかったァ! 一にン肉、二に鬼ン肉、三四も鬼ン肉、五も鬼ン肉! 我こそは鬼天烈大百下・序列十位の―――――」

「煩い。魔極真・ナックルアロー!」

「ぶべほらァァ! お、おおお、なんという剛腕! 惚れる! 掘れる!」

「……ほぉ、硬いな」


 出てくる!



「行くぞ、野郎共! 貴様らは今日より蛆虫ではなく、正真正銘のオーガなり!」


「「「「サーイエッサー!」」」」


  

 出てくる。


「やかましいですが、指揮官の一人ですね! さっさと獲らせてもらいます!」

「は、貴様か! あの七勇者マアムの妹分、サディスという蛆虫女は! 面白い、我が直々に指導してくれる! 鬼の指導者、鬼天烈大百下・序列五位! ココロマーンがな!」


 新時代たちに対抗するかのように、本来は戦場でも将として兵たちを束ねるような存在でありながらも、自らが率先して前へ出てくる、歴史に埋もれた強豪たち。


「おおお、兄貴や姐さんや鬼軍曹が序盤から出て来やがった!」

「ったく、ズリー人たちだぜ。へへ、早くしねーと、俺らの獲物が無くなるぞ!」

「殴らせろぉ! 暴れさせろぉ!」

「ぶっ殺せぇ!」


 遅れてなるものかとオーガの雑兵たちも一斉に群がる。


「ワーチャ、ホワチャ、ワチャホワチャ! はい!」

「どすこーーーい! どすこーーーい! ごっつあんです!!」

「ほぉ、うまそうなケツがいっぱいだ! 我こそは、ダンショク! 今日は治外法権と聞いているぅ!」

「は~~~、カバディカバディカバディカバディ!!」


 だが、ソレに飲まれてなるものかと、カクレテールの猛者たちも堂々と立ち向かった。



「なんじゃァ? 随分と鬼天烈も風変りしたようじゃのぉ~」


「仕方ないじゃもん。時代の流れじゃもん……しかし、気持ちを上げてやれば……吹き荒れるじゃもん! 我が妖術! 誉志智武ポジティブの風!!!!」



 テングが扇を振る。

 すると、吹き荒れる風がオーガたちを纏い、次の瞬間オーガたちの全身筋肉が余計に流々となった。




――あとがき――

サポーターことアニッキー石油王部隊1000人まで、あと……60人!! 

おいでおいで、みなさんおいで!



『第663話 若者たち(ネタバレ注意:禁断師弟でブレイクスルー・先行投稿)』

https://kakuyomu.jp/users/dk19860827/news/16818792440452427586

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